酸素ナノバブル⽔による湛⽔⽔⽥⼟壌の⾼酸素化とメタン⽣成抑制
ナノバブルとは直径1 µm以下の微小気泡で、水中に長期間存在できる。純酸素を材料ガスとするナノバブルを高密度に含む水を作成し、湛水状態の土壌カラムに上部から通水すると、土壌表面付近の浅層中の酸素濃度が上昇するとともに、メタン生成が抑えられる。
背景・ねらい
水田は、強力な温室効果ガスであるメタンの主要な人為的排出源の一つである。このメタンは還元的な土壌中で微生物によって生成されるため、その排出削減には、土壌を酸化的にできる中干しやAlternate Wetting and Drying (AWD)等の水管理が有効である。しかし、水管理の実施には雨季の降雨や排水が困難な低地等の様々な制約があるため、湛水したままでも土壌を酸化的にできる候補技術として酸素ナノバブル水の潅水を提案した(Minamikawa et al. 2015)。そしてポットスケールでのイネ栽培実験において、メタンの直接排出量を21%削減することに成功したが、酸素ナノバブル水の効果機序は未解明のままであった。そこで本研究は、メタン排出削減の原因が酸素ナノバブル水の潅水による湛水土壌の高酸素化であると仮説を立て、イネを栽培しない水田土壌カラム(図1)を用いて週2~3回の手動潅水における通水実験を3回行い、仮説を検証する。
成果の内容・特徴
- 市販の二層流旋回式の発生装置で作成する酸素ナノバブル水の物性は、平均粒子直径が185 ± 57 nm(誤差は標準偏差)で、粒子密度は7.0 × 107 mL-1である。
- 曝気した水道水(対照水)の場合、カラム表面水中の溶存酸素の初期濃度は、ほぼその温度における大気平衡濃度である。一方酸素ナノバブル水では、作成後数時間経過しているが、初期濃度が対照水の1.5倍程度となり、24時間以内は対照水に比べ高く保たれる(図2)。
- 易分解性有機物量が異なる条件(実験1:多、2:中、3:少)の同一水田土壌(灰色低地土)において、酸素ナノバブル水を56日間一定速度(1.73 cm day-1)で通水すると、対照水に比べて排水中への積算溶存メタン排出量を20~28%削減できる(図3)。
- 微小電極とマイクロマニピュレーターを用いて土壌表面付近の浅層中の溶存酸素プロファイルを1 mm間隔で測定すると、酸素ナノバブル水の通水の継続によって、実験35日目には深さ4~15 mmにおいて溶存酸素濃度が上昇する(図4)。この観測結果は、メタン排出削減の原因が酸素ナノバブル水の通水による浅層土壌の高酸素化であることを示唆する。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、酸素ナノバブル水の圃場等の広域スケールでの利用に向けた基礎資料となる。
- 酸素ナノバブル水の潅水頻度等を上げることで、さらなる土壌の高酸素化が期待できる。
- 酸素ナノバブル水による土壌高酸素化の機序として、①溶存態として酸素が土壌中へ届くのか、②気泡のまま酸素が土壌中へ届くのか、③それとも両方なのか、が未解明であるため、今後の研究で明らかにする必要がある。
具体的データ
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図1 土壌カラム実験装置
ポンプによって一定速度で排水される。 -
図2 実験2の表面水中の溶存酸素の推移
任意の水温における溶存酸素の大気平衡濃度を100とする相対値。実線は4回計測の平均値、帯は標準偏差を示す。 -
図3 各実験における溶存メタン濃度の推移(左)と積算排出量(右)
エラーバーは標準誤差(n = 3)を示す。 -
図4 実験2の35日目の土壌浅層における溶存酸素プロファイル
エラーバーは標準誤差(n = 3)を示す。
- Affiliation
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国際農研 生産環境・畜産領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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科研費 » 若手研究(B)
- 科研費
- 研究期間
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2019年度(2016~2018年度)
- 研究担当者
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南川 和則 ( 生産環境・畜産領域 )
牧野 知之 ( 東北大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Minamikawa K and Makino T (2020) Science of the Total Environment, 709:136323
- 日本語PDF
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2019_A02_A4_ja.pdf929.49 KB
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- English PDF
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2019_A02_A4_en.pdf1.36 MB
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- ポスターPDF
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2019_A02_poster_fin.pdf263.44 KB