稲わらから効率的に高濃度糖液をつくる微生物糖化法
背景・ねらい
稲わらはアジア各地で大量に発生し、収穫後の処理として野焼きが行われる地域も多い。野焼きは煙・PM2.5等による大気汚染や健康影響、国境を越えて煙害が広がることもあるなど、地域社会にとって重要な環境課題である。一方、稲わらを糖化して得られる糖液は、燃料 (バイオエタノール) に加え、有機酸や日用品原料となる化学品の製造にも利用でき、野焼きに代わる新たな処理・利用の選択肢として有望である。しかし実装には薄い糖液ではなく、後段の発酵・精製工程の効率向上のため高濃度糖液を得ることが必要となる。そのため高固形分糖化が不可欠であるが、基質濃度の上昇は粘度増大による混合不良に加え、糖化酵素の吸着や活性低下、阻害因子の蓄積を招き、糖化プロセスを不安定化させる。また外部酵素添加に依存する従来法は、コストと供給制約の面で普及の障壁となる。そこで本研究では、外部酵素添加を前提としない微生物糖化法を基盤に、界面活性剤の活用と稲わらを培養途中に追投入する方法 (半連続運転) を組み合わせた運転設計により、高固形分条件でも糖化を安定的に維持して高濃度糖液を得る条件を体系化する。成果の内容・特徴
- Tween 20 (界面活性剤) 添加は、酵素の非生産的吸着および活性低下を抑制し、高固形分 (高負荷) 条件下で微生物糖化を安定化する。Tween 20添加条件では糖生成が向上するだけでなく、培養液中のセルラーゼおよびβ-グルコシダーゼ活性の保持が改善し、糖化が継続しやすい運転状態の確立に有効である (表1)。
- セルロース分解菌 (Clostridium thermocellum) と補助菌 (β-グルコシダーゼ生産菌Thermobrachium celere A9:特許第7460978号) の共培養により微生物糖化法は成立するが、高固形分条件では糖化の進行が不安定化しやすい (図1)。
- 共培養にTween 20添加と稲わらの段階的追加投入による半連続運転を組み合わせることで、糖化停滞が回避され、高濃度糖液を安定的に得られる。初期150 g L-1の稲わらで糖化を開始し、その後100 g L-1の稲わらを追加投入する二段投入の条件では、Tween 20添加区で総量250 g L-1条件でもグルコース140 g L-1 (理論収率の70.1%) が得られるのに対し (図2A)、Tween 20無添加区では糖化が不安定化し、得られるグルコースは99.2 g L-1 (理論収率49.5%) にとどまる (図2B)。
成果の活用面・留意点
- 本法は、国際農研とキングモンクット工科大学トンブリ (タイ) の共同研究で構築した外部酵素添加に依存しない微生物糖化法であり、稲わらなど未利用バイオマスの糖液製造工程の低コスト化とアジア各地での実装検討に活用できる。
- 追投入 (半連続運転) と条件設定の考え方は、高固形分糖化の運転安定化に有効であり、実証規模でのスケール検討 (基質投入、混合・撹拌、運転管理) の指針として利用できる。
- 培養を伴うため滞留時間の設計や菌の維持・追加の要否を検討する必要がある。加えて、界面活性剤は最小有効量の設定、安価な代替剤 (非イオン性界面活性剤:アルコールエトキシレートやアルキルポリグルコシド等) への置換可能性、後段工程への影響を評価する必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » カーボンリサイクル
- 研究期間
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2021~2025年度
- 研究担当者
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Nhim Sreyneang ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
Waeonukul Rattiya ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
鵜家 綾香 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0001-5077-8353小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )
- ほか
- 発表論文等
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国際農研プレスリリース2022年6⽉: 微⽣物の培養だけでセルロースを糖化する技術を開発―微⽣物糖化法で糖化酵素に要するコストをゼロに―Nhim et al. (2025) Frontiers in Microbiology 15:1519060https://doi.org/10.3389/fmicb.2024.1519060
- 日本語PDF
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2025_A01_ja.pdf1.54 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。