低い糖濃度の搾汁液からのエタノール生産におけるエネルギー収支の評価
糖濃度が低いオイルパーム廃棄木由来の濃縮搾汁液を発酵してエタノールを生産する際のエネルギー収支を評価すると、投入エネルギーよりも出力エネルギーが上回るのは、糖濃度が6.1%以上の時である。
背景・ねらい
搾汁液を発酵してエタノールを生産する場合、搾汁液の糖濃度が低いとエネルギー収支がマイナスになる。搾汁液の濃縮は、エタノール生産率を向上させる有効な方法であるが、濃縮のためにエネルギーを必要とする。そのため、何%の糖濃度の搾汁液を濃縮すれば投入したエネルギーよりも出力エネルギーが上回るのかを見極める必要がある。そこで、各種の糖濃度の搾汁液からエタノールを生産する時のエネルギー収支の評価を試みる。
成果の内容・特徴
- 含水量80%、30kgのオイルパーム幹から調整した低い糖濃度(3.1%)を含む搾汁液を平膜フィルターを用いて9.6%まで濃縮するために必要な投入エネルギーは、10.9MJである(図1)。
- オイルパーム幹から搾汁及び発酵に要する投入エネルギーは、それぞれ5.8MJ と0.85MJである(平成25年度国際農林水産業研究成果情報第21号)。これに濃縮に要する投入エネルギー(10.9MJ)を加えると全投入エネルギーは17.6MJである(図1)。
- 耐熱酵母を用いて発酵すると、濃縮した搾汁液(糖濃度9.6%)から濃度0.0454kg/Lのエタノールが0.32L生産される。このエタノールを出力エネルギーとすると6.7MJである(図2)。
- 以上の結果に基づき、各種の糖濃度の搾汁液を9.6%まで濃縮した時のエネルギー収支を計算し、投入エネルギーと出力エネルギーをプロットする。投入及び出力エネルギーの直線が重なる糖濃度6.1%以上の時に出力エネルギーがプラスに転じる(図3)。糖濃度3.1%から9.6%まで濃縮したときの投入及び出力エネルギーは糖濃度に比例して変化するため、この間のエネルギー変化を直線として示す。
成果の活用面・留意点
- オイルパーム伐採木を貯蔵した際に樹液の糖濃度が上昇するものを簡易に選別する手法を、本年度国際農林水産業研究成果情報に報告している。本成果は、樹液を用いてエタノールを生産する際に有効な糖濃度の情報を提供するものである。
- 搾汁液の糖濃度が6.1%以下であっても、搾汁残渣の熱量(平成25年度国際農林水産業研究成果情報第21号)を利用すればエネルギー収支をプラスにすることができる。
- 酵母の発酵効率が90%以下の場合は、出力エネルギーが低下することがある。
具体的データ
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図1 オイルパーム廃棄木からのエタノールを生産する際の搾汁、濃縮、発酵の各プロセスに要する投入エネルギー
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図2 発酵により生産したエタノールの熱量(出力エネルギー)
*1.図1の搾汁濃縮液(5.5L)から生産できるエタノール量(L)は、以下の式により算出:(0.0454kg/L x 5.5L)/0.789kg/L、*2.生産されたエタノールの熱量=21.2MJ x 0.32L -
図3 エネルギー収支がプラスに転じる搾汁液中の糖濃度
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究B
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » アジアバイオマス
- 研究期間
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2015年度(2011-2015年度)
- 研究担当者
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村田 善則 ( 生物資源・利用領域 )
荒井 隆益 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001768小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Y. Murata, et al. (2015) AIMS Journal 3(2): 201-213
- 日本語PDF
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2015_C08_A4_ja.pdf466.99 KB
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- English PDF
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- ポスターPDF
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