微生物糖化法を高効率化させる新規のキシラン糖化菌

関連プロジェクト
カーボンリサイクル
要約
リグノセルロースのバイオマス利用においてセルロース・キシランの安価で効率的な糖化法は重要な技術である。石垣島の堆肥から新たに見出した新属新種の好熱嫌気性細菌Insulambacter thermoxylanivoraxは高効率にキシランを分解する。微生物糖化法で用いるセルロース糖化能の高いClostridium thermocellumと本菌を共培養すると、キシランを多く含むバイオマスの糖化を向上させる。

背景・ねらい

農業生産により副次的に生じる農産廃棄物の多くは、リグノセルロースと呼ばれるバイオマスであり、主にセルロースやヘミセルロースで構成される。リグノセルロースバイオマスは地球上最も豊富な再生可能資源として注目されており、その有効活用が求められている。しかし、効率的で安価なバイオマスの糖化技術の開発が課題であり、国際農研では、市販セルロース糖化酵素(セルラーゼ)に依存せず、糖化微生物の培養だけで糖化することができる「微生物糖化法」(令和4年度研究成果情報「セルラーゼ酵素を使用せずに「微生物の培養だけ」でセルロースを糖化する技術」)を開発している。一方、農産廃棄物によっては、セルロースだけでなくキシランを多く含むバイオマスもある。キシランはセルラーゼ酵素の糖化を阻害するため、微生物糖化法へ組み込めるキシラン糖化微生物の探索とそれを使った糖化技術の開発が求められている。

成果の内容・特徴

  1. キシランを唯一の炭素源とする培地を用いて、石垣島の堆肥から嫌気環境下60℃にてキシランを効率的に糖化させる微生物をスクリーニングし、DA-C8菌を得る。本菌は、既知のXylanibacillus compostiと同じ系統に属するが、デジタルDNA-DNAハイブリダイゼーション、平均アミノ酸配列同一性値、主要極性脂質組成等の遺伝学的、化学分類学的および系統学的解析から、新たに新属新種Insulambacter thermoxylanivoraxに命名する(図1)。
  2. I. thermoxylanivorax DA-C8は、キシランを完全に糖化できるだけでなく(図2)、アラビノキシランやガラクタンなど、キシラン以外のヘミセルロースも糖化する。また生育温度37〜60℃(至適温度55℃)や生育pH4.0〜11.0(至適pH9.0)と広範囲な温度やpHでも生育する。
  3. キシランが比較的多く含有されるオイルパームヤシ殻(EFB)繊維を用いた微生物糖化試験では、セルロース糖化能の高いClostridium thermocellumの糖化能は単独で24.7%、I. thermoxylanivorax DA-C8では13.2%であるのに対し、I. thermoxylanivorax DA-C8とC. thermocellumと共培養した場合の糖化能は58.1%であり、極めて高い糖化効率を示す。これは各々単独の場合と比較し、2倍~4倍の糖化能力の向上が認められる(図3)。
  4. I. thermoxylanivorax DA-C8は、基準株として理研バイオリソースセンター(JCM 34211T)とドイツ微生物細胞培養コレクションセンター(DSM 111723T)に寄託されており、分譲が可能である。

成果の活用面・留意点

  1. EFB以外でも、トウモロコシ茎・葉・芯、稲わらなどキシランの多く含まれる繊維において、C. thermocellumと本菌を共培養すると微生物糖化法の糖化効率の向上が認められる。
  2. I. thermoxylanivorax DA-C8は、嫌気条件下だけでなく、好気条件でも培養することが出来るが、好気培養条件ではキシラン糖化酵素遺伝子の著しい発現抑制が認められ、酸素による代謝制御を受ける*(Chhe et al. 2023を参照)。 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » カーボンリサイクル

受託 » JST/JICA SATREPS

研究期間

2021~2023年度

研究担当者

鵜家 綾香 ( 生物資源・利用領域 )

Chhe Chinda ( 筑波大学 )

小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 70425544
見える化ID: 001772

ほか
発表論文等

Chhe et al. (2021) J. Biotechnol. 342: 64-71.
https://doi.org/10.1016/j.jbiotec.2021.10.008

Chhe et al. (2023) Int. J. Syst. Evol. Microbiol.
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005724

日本語PDF

2023_A02_ja.pdf815.68 KB

English PDF

2023_A02_en.pdf627.34 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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