主要普及成果
セルラーゼ酵素を使用せずに「微生物の培養だけ」でセルロースを糖化する技術
新たに同定した好熱嫌気性細菌Thermobrachium celere A9菌は、セルロースが糖化されたセロビオースをグルコースに加水分解するβ-グルコシダーゼを菌体外に生産する。セルロース高分解菌 Clostridium thermocellumと共培養することで、セルラーゼ酵素を使用することなくセルロースバイオマスをグルコースに変換できるため、効率的で安価なセルロース糖化技術となる。
背景・ねらい
大規模農業生産により副次的に生じる膨大な量の農産廃棄物や、我々の生活から廃棄される繊維や古紙などのセルロースバイオマスは、自然界での分解が難しく、これらのセルロースバイオマスの廃棄や焼却によって発生する温室効果ガス排出量は、世界全体で3億トン以上になると言われる。一方、セルロースバイオマスは地球上で最も豊富な資源とされており、有効な利用が求められている。その分解・糖化には、これまでカビによって生産されるセルラーゼ酵素を大量に使用することが必要であった。しかし、セルラーゼ酵素はリサイクルが難しく、その購入コストも高いため、低コスト化が求められていた。
成果の内容・特徴
- 好熱嫌気性セルロース高分解菌Clostridium thermocellum(以降、「セルロース高分解菌」)とセルロースが糖化されてできたセロビオースを加水分解する酵素「β-グルコシダーゼ」を菌体外に生産する菌を共培養することで、セルロースからグルコースを直接生産することができる「微生物糖化法」を開発する。
- 人工基質であるエクセリンを用いたスクリーニングにより、排水汚泥から「β-グルコシダーゼ」を菌体外に生産する好熱嫌気性Thermobrachium celere A9菌(NITE P-03454)(以降、「A9菌」)が単離される(図1)。
- セルロース高分解菌は、糖化してできたセロビオースをそのまま利用し、菌体外にはβ-グルコシダーゼ活性がないため、セロビオースとして培養液中に残る。一方、新たに同定したA9菌は、セルロースを糖化することはできないが(図2A△・▲)、菌体外に強力なβ-グルコシダーゼを生産する非常に珍しい細菌である(図2A〇)。菌体外に生産されたβ-グルコシダーゼは、セルロース高分解菌がセルロースを糖化してできたセロビオースをグルコースへ変換する(図2A●)。
- グルコースはセルロース高分解菌による利用優先度が低い(図2A■)。A9菌もグルコースの利用優先度が低く、セロビオースを好んで利用する。
- セロビオースは、一般的に微生物の生産するセルラーゼ酵素の働きにブレーキをかける役割を持つ。一方、グルコースはブレーキとならない。本方法の場合、A9菌が生産するβ-グルコシダーゼによりセロビオースがグルコースに分解されてしまうため、セルロース高分解菌の生産するセルラーゼ酵素にブレーキが掛けられず、そのまま働き続ける。その結果、セルロースは高効率に分解されると同時に、グルコースが培養液中に蓄積される(図2B)。
- 「微生物糖化法」は、セルラーゼ酵素を使用せず、微生物の培養だけでセルロースをグルコースに糖化する画期的な技術である。
成果の活用面・留意点
- 微生物糖化法により蓄積されるグルコースは非常に使いやすい糖の一つで、エタノール、油脂、有機酸、アミノ酸、プラスチック原料へ容易に変換できる。
- 微生物は何度でも繰り返し培養でき、増殖の際に自らセルロース分解に必要な酵素を生産するため、セルラーゼ酵素の購入が不要となる。これによってバイオマス糖化の低コスト化が図られる。
- セルロースバイオマスの種類によっては、水熱爆砕やアルカリ処理など前処理が必要となる。
具体的データ
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2017~2022年度
- 研究担当者
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小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )
鵜家 綾香 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0001-5077-8353Nhim Sreyneang ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
Waeonukul Rattiya ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
Baramee Sirilak ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
ORCID ID0000-0001-5122-2971Ratanakhanokchaia Khanok ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
Tachaapaikoon Chakrit ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
ORCID ID0000-0001-9795-2558Pason Patthra ( キングモンクット工科大学トンブリ校 )
- ほか
- 日本語PDF
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。