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1406. 包括的な食料システム変革は、地球温暖化抑制と健康・環境・社会的包摂の改善を両立させる

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1406. 包括的な食料システム変革道筋は、地球温暖化抑制と健康・環境・社会的包摂の改善を両立させる

 

世界の食料システムを変革するにあたり、具体的な対策がシステム変革にどのように貢献できるかを理解する必要があります。Nature Food誌で公表された論文は、世界の食料・土地システムのモデリング枠組みを適用し、食料システム対策が、2050年までに公衆衛生・環境・社会経済に関連する成果指標に与える影響を定量化しました。分析の結果、食料システムに関する個々の対策が個別に実施される場合は成果指標の間で何らかのトレードオフを伴いますが、すべての対策を組み合わせることで、年間死亡者数を1億8,200万減少させ、農業や畜産業において作物や家畜が吸収しなかった窒素の環境放出をほぼ半減すると同時に、環境保護対策が絶対的貧困に及ぼす悪影響を相殺できると推定されました。さらに、食料システム以外の対策も含めた取り組みを通じ、気温上昇を1.5℃に抑制する目標達成が可能になることが示されました。

論文は、豆類の消費量の増加、土地利用変化からの生物多様性ホットスポットの保護、堆肥のリサイクル、最低賃金、そのほか世界の食料システムをより良い健康・環境・社会包摂改善に向けて提案されている23の食料システム対策(food system measures)のインパクト評価を試みました。これらの対策は、単独で実施されると、食料価格の高騰や、貿易依存などの脆弱性が増幅される可能性があります。

例えば、包括的な土地利用保護を伴わないバイオ燃料需要の高まりは、環境に悪影響を及ぼす可能性があります。単独で実施した場合にトレードオフがほとんどない対策として、例えば食生活の変化は一般にリスクが低いとみなされていますが、潜在的なトレードオフとして、農業労働需要の減少とそれに伴う農業賃金の下落、労働力移動と失業の増加の可能性があります。バイオエコノミーにおける新たな雇用機会は構造変化を鈍化させるだけで、余剰労働力の大部分は農業部門以外で吸収される必要があり、再訓練や移動支援制度の提供、代替の生計手段が見つからない高齢労働者への現金給付、あるいは直接販売、農場内加工、アグリツーリズムといったハイブリッドなビジネスモデルの促進などが必要となります。適切に対処すれば、構造変化という課題を機会へと転換し、生産要素をより効率的に活用してスリムでグリーンな成長を実現することが可能です。さらに、地域間のトレードオフ、すなわち移転効果も存在します。例えば、「生物多様性の保全度」の向上は、一部の地域で悪化をもたらすかもしれません。同様に、水資源保護に伴う移転効果により、以前は影響を受けていなかったいくつかの地域で、中程度の水ストレスが生じる可能性があります。

論文は、包括的な食料システム変革が大多数の人々にとってwin-winの結果をもたらすことを示していますが、この変革を達成するには「パラダイム、目標、価値観を含む、技術、経済、社会の要因を横断した根本的なシステム全体の再構築」が必要であると強調しています。例えば、環境汚染の場合は外部性といった市場の失敗の規制、食生活の変化の場合は個人の嗜好や認知バイアスの変化、貿易障壁の削減の場合は国際協力の達成などに依存しています。これらの変革を試みる個々の食料システム対策はトレードオフを伴い、段階的な対策の導入は通常、特定の社会集団からの反対に直面します。論文は、食料システム変革を実現可能にするためには、食料システム対策を統合して実施するための共通ビジョンの構築を支持しています。


(参考文献)
Bodirsky, B.L., Beier, F., Humpenöder, F. et al. A food system transformation pathway reconciles 1.5 °C global warming with improved health, environment and social inclusion. Nat Food 6, 1133–1152 (2025). https://doi.org/10.1038/s43016-025-01268-y

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

 

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