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1386. 生物多様性喪失と気候変動の二重危機対応
1386. 生物多様性喪失と気候変動の二重危機対応
COP30 が開催されたブラジル・ベレンのあるアマゾンは地球の気候安定に貢献する生物圏の一つとして知られています。BMJ誌で掲載された論説は、生物多様性の喪失と気候変動という二重の危機は人類の運命を握っており、COP30における議論の中心に据えられるべきと主張しています。
世界中で加速する生物多様性の喪失は、気候の安定、食料安全保障、そして人類の健康を脅かしています。過去1世紀のあいだ、人為的な経済活動は、自然発生的な絶滅のスピードの30~120倍の速度で生物多様性の喪失を促進してきました。 1900年以降、土地利用の変化だけでも、地球全体で約2.3%の種の喪失につながっています。モデル予測によると、土地利用変化と現在の気候変動の速度が相乗的に進行した場合、今世紀、世界の生物多様性は10年ごとに最大5%減少する可能性があり、特に熱帯地域で深刻な損失が見込まれています。同時に、受粉、水質、土壌保護といった重要な生態系サービスを調整する自然の能力も低下しています。例えば、森林伐採によって引き起こされた局所的な温暖化は、2001年以降、熱帯地域全体で年間推定2万8,000人の猛暑による過剰死亡を引き起こしています。
生物多様性の喪失と気候変動は表裏一体であり、互いに影響を及ぼし合います。ブラジルなどの国では生物多様性が深刻な脅威にさらされているだけでなく、その影響は地球規模に及びます。過去数十年間で、アマゾンの森林被覆は 20% 減少しましたが、その主な原因は、土地が牛の牧草地や大豆栽培に転換されたことです。さらに 17% の森林が伐採、火災、風倒、道路の建設によって劣化しており、現在では地上部の炭素損失の約 73% が劣化によるもので、森林破壊を上回っています。深刻な干ばつや洪水などの極端な気候現象も激化しており、これらの発生頻度は前世紀の 2 倍を超えています。セラードやその他の生態系は、農業の拡大、鉱業、都市化の影響で縮小し続けています。これらの変化は生態系だけでなく、人間の健康も脅かしています。ブラジルでは、森林火災が呼吸器疾患の38%増加と関連付けられており、土地利用変化は新興の人獣共通感染症のリスク増加と関連付けられています。
アマゾンは生物多様性のゆりかごであるだけでなく、地球の主要な気候安定要因の一つであり、地球システムの「ティッピングポイント(人為的な活動のせいで、地球が次第に不可逆性を伴うような大規模な変化を伴う転換点‐温室効果ガスなどの変化が少しずつ蓄積していった結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象。臨界点ともいう)」を超えそうなサブシステムとして知られています。残念ながら、警戒すべき兆候はすでに現れており、アマゾン南東部は純炭素源となりつつあります。将来予測では、2050年までにアマゾンの森林の10%から47%が干ばつ、火災、分断化にさらされ、急速な生態系の移行を引き起こす可能性があると推定されています。同時に、種子散布動物の減少は森林の再生能力と炭素貯蔵能力を脅かし、気候変動緩和における役割を低下させています。
アマゾンは生物多様性に富んでいますが、同時に、350の民族を代表する270万人の先住民を含む多様な文化が共存します。先住民は、生態学的、社会的、そして文化的に、生物多様性の喪失による影響を最も強く受ける一方、彼らの知識は、アグロフォレストリー、地域保全戦略、生態系の回復に貢献し、持続可能な土地ガバナンスのモデルとなっています。1981年から2010年の間に医薬品として承認された新規化合物の50%以上は、主に植物由来の自然由来または着想を得ています。
生物圏の劣化は、自然と地域社会の両方を危険にさらします。COP30が単なる宣言以上の成果をもたらすことを期待しています。各国政府は、気候安定化の解決策として、生物多様性の保護と強化にコミットしなければなりません。気候変動へのレジリエンスは自然に依存しており、自然と地域社会は世界中のコミュニティの健全性にとって不可欠です。
(参考文献)
Opinion. The Amazon is one of Earth’s major climate stabilisers—we must protect the rainforest and its biodiversity. BMJ 2025; 391 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.r2186
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)