Pick Up
1313. プラネタリーバウンダリーとプラネタリーヘルス

1313. プラネタリーバウンダリーとプラネタリーヘルス
地球システム科学者は、地球システムの安定性と回復力を測定・追跡するためのプラネタリーバウンダリー(地球の限界)フレームワークを開発し、人間の活動によってますます影響を受けている9つのプロセスについて、安全領域を定量化しました。 これらのプラネタリーバウンダリーのうち6つは既に限界を超えています。それと並行して、保健分野の科学者は、地球システムの変化が人間の健康と幸福の基盤となる条件を脅かしていることを懸念しています。 これらの懸念から、地球の自然システムに対する人間による混乱が人間の健康と地球上のすべての生命に与える影響を分析し対処することに焦点を当てた、ソリューション志向の学際的な分野および社会運動であるプラネタリーヘルス研究が生まれました。
The Lancet誌で公表された論説は、プラネタリーバウンダリーとプラネタリーヘルス研究のより緊密な統合のために、以下の4つの提案をしました。
第一に、地球システムの不安定化は、人類の健康を根本的に脅かしています。プラネタリーバウンダリーの枠組みによって追跡されている地球システムにおけるそれぞれの変化が、非感染性疾患、食料と栄養、感染症、生殖、母子の健康、メンタルヘルスなど、様々な形で人類の健康に影響を与えるという十分な証拠があります。プラネタリーバウンダリーとプラネタリーヘルスのコミュニティ間の緊密な連携により、地球システムの変化とその相互作用による人間の健康への影響を体系的に調査することが可能になります。しかし、地球システム科学と環境疫学の概念、指標、データは必ずしも一致していません。分野間で知識を翻訳し、地球システムの変化から健康への影響に至るまでの因果関係全体にわたって一貫したアプローチによるプラネタリーバウンダリーの健康リスク評価には、真に学際的な協力が必要であり、そのためには、世界的な情報交換のための恒久的なプラットフォームと、野心的な部門横断的な資金提供が不可欠です。
第二に、正義は地球の限界内で健康を守る上で中心的な役割を果たします。環境変化による健康への影響は地球上のすべての人類と社会に及びますが、地球システムの不安定化に最も責任がない傾向にある将来の世代、先住民、低所得地域、その他の周縁化された集団に不均衡な影響を与えます。最も脆弱な立場にある人々が、地球システムにさらなる負担をかけることなく、食料や水などの必須資源への普遍的なアクセスを確保することが不可欠となり、地球の自然システムを安定化させるためのあらゆる努力は、その負担と利益が公平に分配されるように綿密に評価されるべきです。保健コミュニティは長年にわたり公平性と正義を重視してきましたが、地球の限界の枠組みも近年は「安全で公正な地球システム限界」という、正義の観点から評価されるようになりました。
第三に、政策の真の便益とコストを考慮する必要がります。地球システムと保健コミュニティ間の共同の取り組みは、これまで考慮されてこなかった環境変化の健康への影響を内在化することと、自然が人々にもたらす健康上の利益をより正確に定量化すること(例えば、気候変動や汚染の悪影響の緩和、害虫の抑制、食料、医薬品、アイデンティティの提供など)を可能にします。例えば、世界の食料システム変革は、現在の食料システムの隠れた健康への影響コストを解消し、地球システムへのコストも大幅に引き下げる可能性を秘めています。真の便益と費用の厳密な算定、そして環境変化とその健康への影響の包括的なモニタリングは、国内総生産を超えた様々な指標を適用する新しい経済的アプローチの実施においても重要な役割を果たすでしょう。
最後に、変革をもたらす支持基盤を拡大するための統合科学コミュニケーションの必要性です。こうしたコミュニケーションは、人類の健康を守るためには、地球システムを安定化させるための野心的かつ緊急の取り組みが必要であり、ひいては食料、健康、エネルギーシステムから都市や経済の設計に至るまで、人間活動のほとんどの側面における急速な構造的・変革的変化が不可欠であるという認識を高めることができます。環境、健康、正義の危機が絡み合っている根本原因を克服するには、それらの危機を生み出した考え方を変え、すべての人々と自然の相互関係を受け入れることが必要です。
(参考文献)
Myers, Samuel S et al. 2025, Connecting planetary boundaries and planetary health: a resilient and stable Earth system is crucial for human health. The Lancet, Volume 406, Issue 10501, 315 – 319
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(25)0125…
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)