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1172. プラネタリーバウンダリー内にとどまるための土地管理の変革

1172. プラネタリーバウンダリー内にとどまるための土地管理の変革
気候を調節し、生物多様性を保護し、淡水システムを維持し、食料、水、原材料などの生命に栄養を与える資源を提供する土地は、地球システムを安定的に保つ基盤です。しかし、森林破壊、都市化、持続不可能な農業は、前例のない規模で地球規模の土地劣化を引き起こしており、地球システムのみならず、人間の生存自体を脅かしています。
昨年末、ポツダム気候影響研究所(PIK)のヨハン・ロックストローム教授のリーダーシップの下、国連砂漠化対処条約(UNCCD)と共同で作成された報告書「崖っぷちからの退出:プラネタリーバウンダリー内にとどまるための土地管理の変革 Stepping back from the precipice: Transforming land management to stay within planetary boundaries」を発表しました。
報告書によると、従来型の農業は、森林破壊、土壌侵食、汚染の一因であり、土地劣化の主要な原因となっています。持続不可能な灌漑慣行は淡水資源を枯渇させ、窒素やリンなど肥料の過剰使用は生態系を不安定化します。劣化した土壌は、作物の収穫量と栄養価を低下させ、脆弱な人々の生活に直接影響を及ぼします。さらに、化学物質投入への依存度を高め、農地拡大の土地転換を促します。
今日、土地劣化のホットスポットは、特に南アジア、中国北部、米国のプレーンズやカリフォルニア、地中海など乾燥した地域における、集約的な農業生産と灌漑への過度な依存に起因しています。気候変動は、既に地球の限界を超えており、土地の劣化を加速させています。加えて、急速な都市化は生息地の破壊、汚染、生物多様性の喪失を伴っています。
土地劣化の影響は、熱帯・乾燥地域における低所得国に不釣り合いなほど大きな打撃を与え、女性・若者・先住民・地域社会は環境悪化の矢面に立たされています。脆弱なガバナンスと汚職は違法な森林伐採と資源搾取を助長し、土地劣化と不平等の悪循環を永続させます。
プラネタリーバウンダリーの人類が生存できる安全な活動領域に復帰するためには、土地の劣化を食い止めるための変革的行動を実施する必要があります。
まず、森林の再生、不耕起栽培、栄養管理、放牧の改善、水の保全と収穫、効率的な灌漑、間作、有機肥料、堆肥とバイオ炭の使用の改善は、土壌の炭素貯留を増やし、収穫量向上への効果が期待されます。化学肥料のより効率的な供給も同様に不可欠です。現在、肥料として施用される窒素の46%とリンの66%のみが作物に取り込まれており、残りは淡水域や沿岸地域に流れ込み、環境に深刻な影響を及ぼしています。ビッグデータと人工知能と組み合わせた新しいテクノロジーにより、精密農業、リモートセンシング、土地の劣化をリアルタイムで検出して対処するドローンなどのイノベーションが可能になりました。同様に、水・養分・農薬の精密な散布や病害虫の早期発見からもメリットが得られます。
以上の変革的行動を設計するにあたり、公正と正義の原則に基づいて利益と負担の公平な分配への配慮が欠かせません。そのためには、より強力な土地ガバナンス、土地所有権の正式化、環境への影響に関する企業の透明性の向上が求められます。
(参考文献)
Tomalka, J., Hunecke, C., Murken, L., Heckmann, T., Cronauer, C. C., Becker, R., Collignon, Q., Collins-Sowah, P. A., Crawford, M., Gloy, N., Hampf, A., Lotze-Campen, H., Malevolti, G., Maskell, G. M., Müller, C., Popp, A., Vodounhessi, M., Gornott, C., & Rockström, J.(2024). Stepping back from the precipice: Transforming land management to stay within planetary boundaries. Potsdam, Germany: Potsdam Institute for Climate Impact Research.: https://publications.pik-potsdam.de/pubman/item/item_30631
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)