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1263. 食料システム移行における座礁資産への対応

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1263. 食料システム移行における座礁資産への対応

 

健全で環境的に持続可能な食料システムへの移行の必要性がますます切迫しています。一方、食料システム変革を阻む要因の一つに、市場環境や社会環境が激変することで、従来の資産価値が大きく棄損する、資産座礁(Asset stranding)と呼ばれる事態が指摘されています。Nature Food誌に公表された論文は、食料システムにおいて資産座礁が発生し得る事例を示し、うまく乗り切るための解決策を提示しました。

座礁資産とは、予想よりも収益が少なく、期待される収益の喪失と評価額の低下、あるいは負債への転換を伴う資産です。エネルギー転換に関する議論において座礁資産は広範な研究の対象となっており、例えば地球温暖化を2℃未満に抑えるには、化石燃料を地中に埋めたままにし、発電所を早期に廃止する必要があり、数兆米ドル規模の利益の喪失または逸失利益に相当すると推計されています。Nature Food誌論文は、食料システムの移行も同様に資産の座礁化を伴い、これが大きな移行を阻みうる課題となると論じています。

論文は、食料システムにおける座礁の例として、穀物取引部門のケースを挙げています。農業生物多様性の減少に対する懸念が高まる中、多様性を食料システムに取り戻すため、穀物とマメ科植物の混作、農作物の多様化、低利用作物種の導入などが提案されています。しかし、過去80年間で農家が単一栽培システムに移行し、より均質化されたランドスケープが普遍化するに従い、穀物トラック、収穫後処理施設、貯蔵施設などの輸送ユニットは、一度に大量の単一商品を管理する方向に技術進歩を遂げてきました。間接費は量に関わらず同じであるため、企業は資産のキャパシティを最大化するインセンティブを有しています。これに対し、農場で生産される作物の多様性が増加すれば、単一商品のバルク数量が減少し、限界費用が増加する可能性があります。多様化したニッチ市場が出現している一方で、少数の多国籍商社が保有する既存のインフラ資産は、多様化したサプライチェーンへの大規模な移行を阻む課題となっています。規模の経済性を解消するには、取引業者は新しい機械(例えば、豆類を穀物から分離するための機械)への投資だけでなく、大量生産に対応するために設計された資産の改修や棚卸しも行う必要があります。

変革された食料システムには経済成長の新たな機会が生まれる一方、環境および公衆衛生目標の達成と両立しない資産について、再配置または廃棄を促進する最善の方法を決定すること、そしてより大規模な政策変更への道筋を開く政策ツールキットを開発することも必要です。栄養価が高く持続可能な食料システムと両立しない新たな資産や市場を構築している多国間機関、特に新たな地域においては、座礁資産の要件が拡大しないよう、細心の注意を払う必要があります。また、食料システムの変革を加速化するうえで、座礁資産のコストは誰が負担するのか、食料安全保障にどのような影響を与えるのか、といった倫理的、経済的、法的、そして政治的に難しい問題に取り組む必要があります。

どのような道筋を辿ろうとも、健全で持続可能な食料システムへの移行に伴い、資産の座礁化への対応は必要です。移行の真のコストについて、より詳細かつ明確な情報を得ることができれば、それに対して何をすべきかについて、オープンかつ綿密な議論を始めることができます。座礁資産を最優先事項とすることは、ロックイン状態から脱却し、多くの人が求めている食料システムの変革を実現するために不可欠です。

(参考文献)
Walton, S., Mehrabi, Z., Fanzo, J. et al. Asset stranding could open new pathways to food systems transformation. Nat Food (2025). https://doi.org/10.1038/s43016-025-01170-7


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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