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905. 持続的な消費・生産システムへの移行

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905. 持続的な消費・生産システムへの移行

 

人類は地球の資源および市場・制度・政治・権力によって仲介される人智を駆使し、食料・エネルギーなどの需要を満たしてきましたが、しばしその方法は非持続的です。持続的な消費・生産システムへの移行の方向性を見出す必要があります。11月21日、PNAS誌で、持続的な消費・生産システムへの移行(Sustainability Transitions in Consumption-Production Systems)に関する特集が発表されました。 その特集をとりまとめた論考から、持続的な消費―生産システム、の定義について紹介します。

 

「持続性への移行 “transition to sustainability”」というもともとの概念は一般的すぎて、具体的にどのような移行が推進されるべきかという議論を阻んできました。最近の研究により、概念上、「何を目指す移行なのか “transitions toward what”」・「何を変える移行なのか “transitions of what”」・「どんな時間軸・空間軸での移行なのか “transitions over what temporal and spatial scales”」という3点が明確に定義されたことにより、持続性への移行に関する具体的な研究への可能性が拡がりました。


1:何を目指す移行なのか ―より持続可能な開発への経路
Transitions Toward What? More Sustainable Development Pathways.

何を目指すべきかについての回答は、より持続的な開発への経路・道筋が必要であるのは間違いないところです。進展を評価する手法については最近ようやく注目されるようになり、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」について概念的レベルでの合意形成は進んでいます。さらに経済的フローだけでは捉えられない人的資本や自然資本など人間福祉に貢献する富の「包括性」への理解も高まってきました。持続性への移行を評価する指標にも、同様の包括的な視点が求められるところ、持続性の社会的・環境的側面の双方を反映するSDGs目標のインパクトによって移行度を評価することが、現実的な落としどころかもしれません。


2:何を変える移行なのか ― 消費―生産システム 
Transitions of What? Consumption-Production Systems.

持続性を追求していけば、最終的には、世界的なレベルで複雑に絡み合う自然―社会システム(the nature-society system)に行きつくことについて一般の理解も深まっています。人類は地球の資源、および市場・制度・政治・権力によって仲介される人智を駆使し、食料・エネルギーなどの需要を満たしてきました。その結果、開発経路は非持続的なわけですが、より持続的な経路への移行は、自然―社会システムの一部あるいは複数の部分に介入することが求められます。実際には、自然―社会システムが複雑すぎて、持続的な移行を進めようとする中範囲理論(middle-range theory:理論と実証研究とを統合することを目的とする社会学理論へのアプローチ)は挫折しています。一方で、複雑な自然―社会システム全体において比較的シンプルな要素である、消費―生産システム(the consumption-production systems: CPS)に着目する研究で進展が見られます。多くの研究が有効な分析ツールとしてCPSを用いることで、知識・技術・インフラ・資源・市場や政策、といった要因を通し、開発経路が様々なアクターのプッシュ・プル要因によって形成される様を研究できるようになりました。持続性への移行を理解し推進することを目指した研究は、現状の消費―生産システムの移行に焦点を当てることで、より有益な議論を提供するようになっています。


3:どんな時間軸・空間軸での移行なのか ― 広域・長期 
Transitions at What Scales? The Large and the Long.

自然と社会が相互作用しあう移行は、全ての時間・空間軸で起こりえます。一方、持続可能な開発ゴールの肝である環境・公平性への関心を踏まえれば、より広域で長期のスケールに焦点を当てる場合に、持続性への移行研究の有用性は高まります。とりわけ、空間軸については、特定の地域の人々の福祉を向上させる消費が、その他の地域において問題を引き起こす生産慣行や環境汚染の不公平な輸出によって成り立っているような状況を取り扱えるよう、広域である必要があります。現代のグローバリゼーションを踏まえれば、持続性への移行研究はグローバルな視点を持つべきです。同様に、時間軸についても、世代間の公平性に配慮すべきです。現世代の人々の繁栄は、将来世代の生活の質を損ねるものであってはなりません。これらを踏まえれば、持続性への移行研究は、グローバルな空間軸・数十年間の時間軸を持つべきです。


(参考文献)
Frank W. Geels, Florian Kern, and William C. Clark, Edited by Ruth DeFries. Sustainability transitions in consumption-production systems. November 13, 2023 PNAS. 120 (47) e2310070120. https://doi.org/10.1073/pnas.2310070120


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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