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876. 地政学的分断が脅かす食料安全保障とクリーンエネルギー移行

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876. 地政学的分断が脅かす食料安全保障とクリーンエネルギー移行

グローバル化が進んだ世界において、グリーン経済移行に不可欠なレアメタルや農産物は資源賦存・比較優位を持つ少数の生産・輸出国に集中しており、地政学的な危機による取引中止というリスクにさらされています。

2022年2月末ロシアによるウクライナ侵攻は、世界商品作物市場を分断し、食料価格の高騰をもたらしました。そして今、中東における地政学的な危機が、世界貿易のサプライチェーンの攪乱による価格高騰を通じ、食料安全保障や持続的開発目標の実現を脅かす可能性があります。

10月3日に国際通貨基金(IMF)が発表したブログは、農産物やレアメタルといった戦略的な商品が少数の生産・輸出国に集中していることから、地政学的な分断(Geoeconomic Fragmentation)が食料安全保障・クリーンエネルギーへの移行を脅かしかねないことに警鐘を鳴らしました。

IMFによると、地政学的な分断による商品価格の乱高下は、長期的には世界経済に0.3%程度の損失しか与えないものの、低所得で脆弱な国々は主に農産物輸入が滞ることで長期的に平均GDP1.2%、中には2%相当のロスを被るとし、食料輸入低所得国の食料安全保障に多大な影響を及ぼす可能性を指摘しました。

この背景として、ブログは、国際的に取引される商品の生産が資源賦存で比較優位を持つ地域に集中していることに言及します。例として、鉱物資源供給のトップ3の国々が世界全体の産出高の70%を占めるケースもあります。鉱山・加工施設の開発は数年単位の事業であり、短期的な価格シグナルにすぐ対応できません。

食料や燃料といった商品は世帯消費に重要であり、多くの鉱物資源は技術・製造業にとって欠かせない投入財となります。需要に対し、供給源が地理的に偏ることで、多くの国がごく少数の供給国に依存することになり、貿易規制が引き起こす価格の乱高下に脆弱な状況を形成します。

ブログは、食料安全保障・グリーン経済移行への危機を回避する上で、多国間主義に基づく国際協力の必要性を強調しました。

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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