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898. アフリカ農業における課題 ―特に土壌微生物と、無視され十分に活用されてこなかった植物種の可能性―

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898. アフリカ農業における課題
―特に土壌微生物と、無視され十分に活用されてこなかった植物種の可能性―

 

1. 世界の中でのアフリカの食料システムの課題

アフリカの農業は、生産と栄養を改善するための多くの課題に直面しています。最大の課題は、増え続ける人口を養うのに十分な食料を生産することです。2050年の世界人口に必要な食料は、2007年の1.63倍になりますが、サハラ以南アフリカ(サブサハラアフリカ:SSA)と南アジアでは2.32倍になると言われています。現在、アフリカは、人口を養うため、農産物の輸入に大きく依存しています。例としてロシアとウクライナのコムギへの依存が挙げられます。最近のロシアとウクライナの紛争は、食料輸入に依存する国々がいかに脆弱であるかを示しました。

世界の食料システムにおける重要な歴史的出来事は、直接的または間接的に、アフリカの食料システムに影響を与えました。これらの出来事には、1840年以降の肥料産業の設立、20世紀半ばからの 「緑の革命」、2000年代のグローバリゼーションの加速、2022年のロシアとウクライナの紛争、そしてごく最近の2023年の国連事務総長の宣言「世界は今、地球規模の沸騰の時代にある」です。生産量の増加を通じて飢餓を撲滅するために、「緑の革命」自体は、トウモロコシ、コメ、コムギなどの少数の戦略的な主食作物と、環境への配慮をあまり考慮せずに多量の肥料を使用することにフォーカスしていました。その結果、世界的には穀物の収量は大幅に向上し、人口増のスピードを上回る食料生産増を達成しました。

しかし「緑の革命」は世界的に見ると、かたよったものでした。「緑の革命」は、改良された遺伝資源の選択と、大規模な単一栽培による「規模の経済」の実現によって、大規模かつ均質な条件を特徴とするアメリカ大陸などの地域適用できました。また、この技術は、コメなどの肥料応答性の高く、遺伝資源が均質化された農業条件で栽培されているアジアにも適用できました。しかし、アフリカでは、小規模かつ多様な環境、風化した多様な土壌による複雑な農業条件、管理システムの地域間/地域内の多様性が特徴です。そのためアフリカにおいて「緑の革命」を適用することは困難でした。それでも、アフリカの熱帯/亜熱帯地域に特有の遺伝的多様性は、健康的な食品の提供に対してプラスの意味を持っているだけでなく、人間の栄養にとって重要な「無視され、十分に活用されていない植物種」(Neglected and Underutilised Plant Species : NUS)の活用という、大きな可能性も秘めています。

 


2. アフリカにおける気候変動とその影響

飢餓をなくすための化学物質の多用により、窒素などの一部の元素が、惑星の境界(プラネタリー・バウンダリー)を越えて、地球の健康に脅威を与えています。化学物質の使用や、一部の地域で続いている耕地を求めた森林伐採などの食料生産システムは、温室効果ガスの重大な原因となっています。アフリカは温室効果ガスの排出に、さほど寄与していないと考えられていますが、地球規模の警報(沸騰)、洪水、繰り返される干ばつなどの影響を受けています。残念ながら、大局的に見ると、気温が1℃上昇するごとに、穀物の収量は約5%減少するといわれています。これはアフリカにおいて顕著です。気候変動によって、アフリカのコムギの収量は、今世紀半ばまでに15%減少すると予想されています。最も被害が大きい地域は、東部から南部まで続くサヘル地域です。モザンビーク、ジンバブエ、南アフリカなどの南部アフリカ諸国は大きな影響を受ける可能性が高いです。したがって、気候変動に適応した新品種の育種の加速、ICT等の先端技術を活用したスマート農業の導入、気候変動に対する耐性が高いと考えられるNUSの利用促進など、気候変動の影響を抑制するための対策を講じる必要があります。

 


3. アフリカの土壌肥沃度問題と土壌微生物の可能性

そもそも、アフリカの痩せた土壌で作物の生産を維持することは困難です。ここでは、肥料価格の高騰という現在の状況の中での、アフリカの土壌肥沃度の課題を概観するとともに、作物生産を改善するための土壌微生物の可能性について紹介します。アフリカの土壌はリンや窒素などの主要元素が乏しいです。マダガスカルを含むアフリカ中央部の風化土壌にはリンが多く固定されてしまうため、肥料として施用されたリンの利用効率が制限されています。南部諸国やサヘル地域以北では、リンの固定力は低いものの、土壌に与えるリンが不足しています。アフリカ地域全体の土壌リン状態の違いは、異なるリン管理システムの適用が必要であることを意味します。その戦略の一つが、地元に存在する材料を使った肥料の製造です。ブルキナファソとのSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)プロジェクトにおいて、国際農研は、作物の収量を増加させながら土壌を大幅に活性化し、土壌の生物学的な健康度を改善する肥料として、「リン鉱石-根圏土壌堆肥」を導入しました。根圏土壌は、堆肥化している間に、リン鉱石中のリンの可溶化を促進する微生物(リン可溶化微生物)を含む有益な微生物の生息地です。成熟した堆肥には、利用可能なリンがより多く含まれるだけでなく、畑に施用されるとリンの循環を促進できるリン可溶化微生物もより多く含まれます。この堆肥は、作物生産において化学肥料に匹敵する効果があり、さらに、より環境に優しいものです。

また、マメ科作物は大気中の窒素を固定する窒素固定細菌との共生により窒素を生成できます。マメ科作物を栽培することで、窒素肥料への依存を減らして、土壌中の窒素が少ない問題を克服できる可能性があります。マメ科の被覆作物を使用すると、炭素隔離(二酸化炭素の大気中への排出を抑制する手段)も強化され、土壌被覆による土壌浸食が軽減されます。しかし、人口の増加や、新たな耕作可能な土地の探索が必要になるため、今日では非食用マメ科の被覆作物を広範囲に導入することは好ましくありません。別の方法として、窒素固定性の高い細菌を分離・精製し、バイオ肥料として利用することも可能です。カメルーンで行われた研究では、マメ科植物Pueraria phaseoloidesの根粒から細菌を分離し、高い窒素固定能を持つ菌株(Bradyrhizobium yuanmingense)を同定しました。この菌株を使用した野外接種により、植物および作物の成長中の窒素量が大幅に増加しました。固定された窒素は、さまざまな作物や、後作の作物にも有益です。

アーバスキュラー菌根菌(AMF)は、植物のリンの取り込みを促進するもう1つの重要な微生物群です。それらは植物の根に感染し、その菌糸をより深い地中まで伸ばし、リンを抽出して植物に輸送します。したがって、AMFを接種した植物は、非接種の植物よりもよく成長します。Colletotrichum tofieldiae (Ct)も、低リン土壌における植物のリンの取り込みを増加させることが確認された真菌です。

 


4. アフリカの栄養改善におけるNUSの可能性

気候変動の影響を受けやすい少数の作物のみに頼ってきたことが、アフリカでの作物生産量の低下と栄養欠乏の一因となっています(2020年で21%、ワールド・ビジョン)。気候変動下でも機能し、市場と適合し、人間の健康に十分な栄養素を提供できる、スマート農業技術を促進する必要があります。戦略の1つはNUSの推進です。NUSは食品、医療、貿易、その地域な文化として使用されていますが、主流の農業の一部として広く商業化されたり研究されたりしたことはありません。NUSは、人類が歴史を通じて利用してきた作物の一部である可能性もあれば、世界的に特定されているものの、広く使用されていない植物種である可能性もあります。アフリカには約45,000 種の植物があり、そのうち5,000種が使用されており、多くのNUSが存在することがわかります。

さらに、多くの種はあまりにも無視されているため、その特徴が失われている可能性があります。必要な水量が少なく、痩せた土壌にも耐えられるため、NUSの推進は環境フットプリント(人間の消費活動がどれくらい環境に対して負荷を与えているかを示す「環境の足跡」)を削減し、地球と人間の健康を改善することに貢献します。いろいろな環境や社会経済的条件でのニーズを満たすために、バイオテクノロジーは、多様な遺伝資源の育種などのG(遺伝子)×E(環境)研究を加速する可能性があります。スマート農業またはデジタル農業は、M(管理)×E(環境)研究や、農業上の実践の最適化を促進します。アフリカでは、NUSはバンバラ豆などのマメ科植物からテフやフォニオなどの穀物、根や塊茎、樹木などに至るまで、さまざまな植物群を交配しています。それらは食用だけでなく、薬用にも利用されます。このようにNUSはアフリカの栄養改善や健康促進に寄与する可能性があります。

 


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877. 「無視され十分に活用されてこなかった植物種:サハラ以南アフリカにおける持続可能な食料システムへの貢献と可能性」に関するセミナー
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20231013

714. 土壌微生物の力で食料生産と土壌肥沃度の向上を両立
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20230209

低品位リン鉱石を活用した有機肥料製造技術を開発―土壌微生物の働きにより化学肥料と同等の増収効果―
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2022/press202212

在来リン鉱石を活用し肥料の地産地消! 輸入肥料から脱却せよ! ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデルの構築
https://www.jircas.go.jp/ja/satreps-burkinafaso

 


(文責:生産環境・畜産領域 サール・パパ・サリオウ、食料プログラム 中島 一雄、情報プログラム 飯山 みゆき)

 

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