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539. 健康増進のための十分に活用されていない遺伝資源・アマランサスの今後の展望と可能性

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539. 健康増進のための十分に活用されていない遺伝資源・アマランサスの今後の展望と可能性

大規模な気候変動および「隠れた飢餓」と呼ばれる深刻な栄養失調は、地球規模課題の一つであり、このような問題の影響は、先進国に比べて、人口増加率および都市化が加速している開発途上国でより深刻です。国際農研では、開発途上国の健康増進や所得向上を目的に、世界蔬菜センター (World Veg) と共同で、孤児作物と呼ばれる、十分に活用されていない遺伝資源の一つであるアマランサス種 (Amaranthus spp.) の野菜利用および栄養性に関する研究を実施してきました。

世界の食料供給システムは、いくつかの動植物の種および系統に依存しており、遺伝的多様性の保全および環境適応性の向上を目指す作物育種戦略の脆弱性につながることが指摘されています。生物学的栄養強化(biofortification、バイオフォーティフィケーション)は作物の栄養価を高めるための育種戦略に基づいており、食事の質を改善するのに効果的で、すでにアフリカで広く受け入れられています (De Brauw et al., 2018)。アフリカ、アジア等の開発途上国に顕著にみられる気候変動や人々の栄養の問題に対する取り組みとして、「孤児作物」(Orphan crop) 注1を利用することが効果的かもしれません (McMullin et al., 2021)。しかし、地球規模課題への適応において、多くの地域に適応した品種および植物種 (すなわち、孤児作物)の潜在的な役割は、まだ十分に検証および理解されておらず、現代の植物育種技術では軽視されています (Kamenya et al., 2021)。

孤児作物は、特定の地域に限定され、国際的に取引されていない果物、野菜、マメ科植物、穀物等が含まれます (McMullin et al., 2021)。先進国の経済および農業における孤児作物の重要性は低いのですが (Sogbohossou et al., 2018)、ほとんどの孤児作物には、栄養価が高く極端な環境ストレスに適応できる種や栽培品種が含まれています (Dawson et al., 2019)。そのため、孤児作物は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの低所得国に住む人々の持続可能な農業技術に貢献できる可能性が高いだけでなく (Tilman et al., 2011)、先進国の消費者に斬新で多様な健康食品を提供できる可能性が期待できます (Dawson et al., 2019)。

将来の社会のための持続可能な食料システムを構築するために、健康的な生活、環境への影響が少ないことを保証する必要があります。このたび植物学の国際誌Plant Physiology and Biochemistryに発表した総説Prospects and potentials of underutilized leafy Amaranths as vegetable use for health-promotionでは、健康的で環境への影響が少ない持続可能な食料システムを構築するための戦略の1つとして、栄養価が高く、現行の農業生産システムに適応し、環境ストレス下での高いレジリエンス能を備えた孤児作物の可能性、特に環境変動、栄養価、健康上の利点および薬用利用におけるアマランサス種の有用性について解説しました。さらに、アマランサスが属するナデシコ目が持つユニークな抗酸化物質注2であるベタレイン注3の生理学的機能、薬用機能、生合成経路、ベタレインの分子的と生化学的メカニズムについても解説しました。過去10年間で、孤児作物、アマランサス、ベタレインを含む栄養成分研究にかなりの進歩が見られていますが、まだ、他の作物研究に大幅な遅れをとっています。今後、世界中で遺伝資源を収集し、遺伝資源の特性評価や栽培品種の識別、ジェノタイピング及びオミクスツールの利用、ゲノムワイドなDNAマーカーを開発することが望まれます。非常に栄養価が高く、極限環境ストレスに対してレジリエンス能を発揮する孤児作物、アマランサスの利用は、将来の持続可能な農業システムに役立つ可能性が高いと考えます。

国際農研では、本総説で取りまとめた知見を元に、アマランサス等の未利用遺伝資源を用いた環境適応性および栄養性研究を推進し、アフリカ、アジア等の開発途上地域において顕著にみられる気候変動や人々の栄養問題の解決の一助になることを目指します。

 

注釈

1.    孤児作物:特定の地域で生産・消費され、国際的に取引されていない果物、野菜、マメ科植物、穀物が含まれる。アマランサス、バオバブ、モリンガ、キヌア、シコクビエ等がある。孤児作物は十分に活用されていない食用植物であり、先進国の経済と農業においては、重要性が低い。

2.    抗酸化物質:活性酸素の産生やその機能を抑制する物質の総称。ポリフェノールやカロテノイドが含まれる。

3.    ベタレイン:植物の花や果実などを赤紫や黄色に彩る植物色素。赤~赤紫色を呈するベタシアニン、黄色を呈するベタキサンチンの2種に分けられる。その生産は、ナデシコ目のヒユ科・オシロイバナ科・サボテン科などの植物種に限定される。活性酸素などを除去する高い抗酸化機能をもつことが知られている。


(参考文献)
Dawson, I.K., Attwood, S.J., Park, S.E., Jamnadass, R., Powell, W., Sunderland, T., Kindt, R., McMullin, S., Hoebe, P.N., Baddeley, J., 2019. Contributions of biodiversity to the sustainable intensification of food production–Thematic study for The State of the World’s Biodiversity for Food and Agriculture.

De Brauw, A., Eozenou, P., Gilligan, D.O., Hotz, C., Kumar, N., Meenakshi, J., 2018. Biofortification, crop adoption and health information: impact pathways in Mozambique and Uganda. Am. J. Agric. Econ. 100, 906-930.

Kamenya, S.N., Mikwa, E.O., Song, B., Odeny, D.A., 2021. Genetics and breeding for climate change in Orphan crops. Theor. Appl. Genet. 134, 1787-1815. https://doi.org/10.1007/s00122-020-03755-1

McMullin, S., Stadlmayr, B., Mausch, K., Revoredo-Giha, C., Burnett, F., Guarino, L., Brouwer, I.D.,

Jamnadass, R., Graudal, L., Powell, W., Dawson, I.K., 2021. Determining appropriate interventions to mainstream nutritious orphan crops into African food systems. Glob. Food Sec. 28, 100465. https://doi.org/10.1016/j.gfs.2020.100465

Sarkera, U., Lin, Y.-P., Oba, S., Yoshioka, Y. Hoshikawa, K. 2022. Prospects and potentials of underutilized leafy Amaranths as vegetable use for health-promotion. Plant Physiology and Biochemistry, 182, 104-123. DOI:10.1016/j.plaphy.2022.04.011

Sogbohossou, E.D., Achigan-Dako, E.G., Maundu, P., Solberg, S., Deguenon, E.M., Mumm, R.H., Hale, I., Van Deynze, A., Schranz, M.E., 2018. A roadmap for breeding orphan leafy vegetable species: a case study of Gynandropsis gynandra (Cleomaceae). Hortic. Res. 5, 1-15. DOI 10.1038/s41438-017-0001-2

Tilman, D., Balzer, C., Hill, J., Befort, B.L., 2011. Global food demand and the sustainable intensification of agriculture. PNAS. 108, 20260-20264.

 

(関連するページ)
490. 野菜研究 ―世界の栄養改善に向けてー
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220304

108. 世界野菜センター: マダガスカルの伝統野菜に勢いをつける
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200813

4.    ウユニ塩湖のキヌア -「スーパーフード」孤児作物研究の意義
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200318

 

(写真)多様なアマランサス遺伝資源の表現型 (台湾にある世界蔬菜センターで栽培)

 

(文責:生物資源・利用領域 星川 健)