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858. 食料システムにおけるネットネガティブ排出の実現可能性

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858. 食料システムにおけるネットネガティブ排出の実現可能性

気候変動対策における温室効果ガス排出を限りなく削減し、できれば炭素貯留を実現するためのシステム変革が求められています。ネットゼロの達成は、まず、人為的な温室効果ガス排出量を可能な限りゼロに近づけ、次に、排出量を完全にゼロにすることが困難な場合、その同等量の排出量を除去することを必要とします。さらに、二酸化炭素の吸収量が排出量より多ければ、全体の排出量がマイナスとなるネットネガティブな排出の達成も可能かもしれません。人為的な温室効果ガス排出の3分の1近くを占めるとされる食料システムにとっても、ネットゼロ~ネットネガティブ排出を達成するためのシステム変換を実現する様々な可能性を検討する必要があります。

 

9月上旬にPLOS CLIMATE誌で、食料システムにおいてネットネガティブ排出を実現する可能性について、モデルに基づくシナリオ分析を行った論文が発表されました。

論文は、世界人口が約10億人に達する2050年までに食料システム由来の温室効果ガス排出ネットネガティブを達成するために必要とされる、消費者選択、気候スマートな農業技術、そして食料廃棄物削減、の可能性を検討しました。世界食料システムモデルを用いたシナリオ分析によると、行動変容・管理・技術介入の全てを完全に実施することで食料システム変革を実現すれば、年あたり最高33ギガトンのネットネガティブな排出を達成すること可能性もあることを示しました。

ネットネガティブ排出達成において最も可能性が高い技術として、水素燃料を用いる肥料生産、家畜飼料、有機・無機土壌改良資材、アグロフォレストリー、持続的な水産物収穫慣行、が挙げられます。

消費面に関しては、フレキシタリアン・ダイエット(基本は植物性食品を中心に食べ、ときに肉・魚も食べるという柔軟なベジタリアンスタイル)の採択だけで食料システムの脱炭素化を実現することはできないが、技術的な介入と組み合わせることでネットネガティブに貢献しうる可能性があります。

温室効果ガス排出には様々な技術の適用が必要で、食生活のシフトはとりわけ反芻動物の生産と非集約的な農業システムによって特徴づけられる国々において効果が期待されます。この研究は、食料システムがネットネガティブ排出を実現する上で、世に出てくる気候スマートな農業技術を駆使し、「ゆりかごから墓場まで “cradle-to-grave”」かつ「陸から海まで“land-to-sea”」に至る、多面的な排出削減戦略を活用していく可能性を示しました。

 

(参考文献)


Almaraz M, Houlton BZ, Clark M, Holzer I, Zhou Y, Rasmussen L, et al. (2023) Model-based scenarios for achieving net negative emissions in the food system. PLOS Clim 2(9): e0000181. https://doi.org/10.1371/journal.pclm.0000181

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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