Pick Up

1232. ネイチャーベースドソリューションの実現可能性

関連プログラム
情報

 

1232. ネイチャーベースドソリューションの実現可能性

 

食料システムは世界の温室効果ガス排出量の 30% 以上を占める一方で、最大 10 兆ドルの隠れた社会的および環境的コストを生み出しています。既定路線シナリオでは、農業由来の温室効果ガス排出量は 58% 増加し、食料供給への影響が大幅に悪化することが予想され、その負担は低所得国に不釣り合いにかかっていきます。2050 年までに 100 億人の人々に食料を供給するという課題達成には、生産量の最大化から持続可能な生産の優先への移行が必要です。

ネイチャーベースドソリューション(Nature-based solutions:自然に基づく解決策 )は、とりわけ気候変動の影響と食料システムの非効率性という二重負荷に直面する脆弱な国々に有望な機会を提供します。世界銀行のブログは、ネイチャーベースドソリューションは世界の食料システム変革の道筋を提供することが期待される一方、展開には課題もあると述べています。

ネイチャーベースドソリューションは、広義では「生態系を保護し、持続可能な形で管理し、回復するための行動」と定義され、農業生産性の向上・生計の保護・環境保全を通じたレジリエンス構築に役立つとされる、アグロフォレストリー、バイオ炭、作物多様化、耕起削減、有機肥料および肥料使用削減、水管理、などの農業慣行が含まれます。

最近の研究では、作物多様化により 63 %の確率で win-win の状況がもたらされたとし、別の研究では、作物多様化により作物生産量が 14 %、関連する生物多様性が 24 %向上しました。これらの研究は、より持続可能な農業食品システムを促進する上でネイチャーベースドソリューションが極めて重要な役割を果たしていることを強調しています。

一方、農業生産性へのメリットがあるにもかかわらず、こうした慣行の採用率は依然として低いままです。アプローチの有効性は、明らかに地域の状況と特定の農業状況に依存します。たとえば、炭素隔離は、有機物含有量の高い土壌で最も効果的であり、これらの条件がなければ、農家は環境上の利点と作物の収穫量の間でトレードオフに直面する可能性があります。同様に、アグロフォレストリーは生物多様性を大幅に高めますが、適切に管理されなければ、作物の収穫量を最大 19 %削減する可能性もあります。

農家がネイチャーベースドソリューションを採用するかどうかは、その経済的実現可能性にかかっています。メタ分析では、ネイチャーベースドソリューションによって農家の利益が平均 19% 増加したことが示されていますが、初期費用が法外に高額になる可能性があります。たとえば、ある研究では、侵食防止対策によって費用が 7% 増加し、耕起の減少によって費用が 62% 増加したことが判明しました。このような初期費用によってキャッシュフローが変化し、農家が新しい植栽技術から換金作物の導入に至るまでのアプローチを採用することを思いとどまらせる可能性があります。こうしたリスクは、低所得国および中所得国の小規模農家にとって特に高い傾向があります。

ネイチャーベースドソリューションは、排出量の削減、食料安全保障の改善、農家の収益性の向上という 3 つのメリットをもたらす可能性があります。ただし、その技術的実現可能性と経済的実行可能性は状況に大きく依存するため、開発担当者は、公共政策によって適切なインセンティブと導入を促進する条件をどのように作り出せるかを検討する必要があります。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

関連するページ