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667. 世界肥料市場・政策動向

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667. 世界肥料市場・政策動向

ロシアによるウクライナ侵攻は、サプライチェーンを攪乱し、エネルギー・農産物・肥料価格にインフレ圧力をもたらすことで、ポスト・パンデミックの世界経済に暗い影をおとしています。ロシアとウクライナは主要な穀物輸出国であるだけでなく、とくにロシアは世界で最大の肥料輸出国であり、2021年時点で世界最大の窒素(N)肥料輸出国、世界二位のカリウム(K)肥料輸出国(ベラルーシは三位)、世界三位リン(P)肥料輸出国でした。地政学的な危機は、輸入肥料に依存する国々の農業生産に大きな影響を及ぼします。本日は、国連食糧農業機関(FAO)と世界貿易機関(WTO)がまとめた世界肥料市場・政策動向についてのレポート(GLOBAL FERTILIZER MARKETS AND POLICIES: A JOINT FAO/WTO MAPPING EXERCISE)の概要を紹介します。

世界の肥料価格は2020年頃から上昇し始め、2021年半ばに過去最高値にならぶ水準をつけていきました。とりわけ窒素(N-Urea)肥料の名目価格は2020年1月の215米ドル/トンから2022年9月の678ドル/トンへと3倍近く上昇します。同時期にリンP肥料価格も上昇し、リン酸二アンモニウム肥料(DAP)価格は265ドル/トンから752ドル/トンへと上昇しました。対照的に、2022年初頭まで余り価格上昇の影響を受けていなかったカリウムK肥料価格は2022年3月に221ドル/トンから563ドル/トンに急騰しました。

2021・22年期の高肥料価格と供給制約は、2022・23年の肥料施用が下がる可能性を示唆しています。過去の例を振り返っても、2008・09年の肥料価格高騰の際、2007年比でリンP肥料施用は8%、カリウムK施用は16%減少したと報告されています。

レポートは、肥料施用の減少のインパクトを推計することは困難であるとしつつも、リンPおよびカリウムK肥料の施用を一期減らすことに比べ、窒素N肥料施用水準の減少は、2023年以降も産出水準・食料生産の質の低下につながると指摘しています。農家の窒素N需要は非弾力的(価格変化により影響を受けづらい)と言われています。例えば、2008年、2007年比で世界の窒素N適用は1%以下しか減りませんでしたが、貧困国ではもともと低い肥料使用料が削減される可能性があります。先進国の農家は窒素N肥料価格の上昇を吸収する傾向がありますが、途上国では肥料の入手が困難になることで、施用量を減らさざるを得ない状況に直面します。実際に2009年には、アフリカにおける窒素N肥料の使用は2008年比で13%減少したと伝えられています。アフリカ大陸の多くの地域が気候変動や食料安全保障上の課題を抱えていることを考慮すれば、アフリカにとって肥料削減をせざるをえないことは極めて懸念材料となります。

 

レポートは、歴史的に化学肥料の使用が農業生産性改善、および世界の食料安全保障に貢献してきたことは疑いの余地がないと論じます。近年では、環境インパクトという側面から化学肥料の使用に厳しい目が注がれるようになっていますが、現状では途上国にとって商業的に採算の取れる代替的な選択肢がない中、危機に際して短期的には肥料使用を支援する以外ないというのも事実です。アフリカは世界の肥料使用の3-4%しか占めていませんが、その肥料の50%がアフリカの重要な換金作物に使用されているといいます。肥料使用の制約は、食料安全保障にとって大きな懸念材料となります。

同時に、中長期的に、世界各地域の気候土壌学的・社会経済的条件に見合った肥培管理方法肥料利用の効率化を可能とする作物の品種開発等を通じ、生産性維持と環境負荷削減を両立するイノベーションの果たす役割が期待されます。

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)