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653. メキシコのダイズさび病菌に関する論文が米国植物病理学会誌PhytoFrontiersの2021年優秀学生論文賞で入賞

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653. メキシコのダイズさび病菌に関する論文が米国植物病理学会誌PhytoFrontiersの2021年優秀学生論文賞で入賞

メキシコは年間600万t以上の大豆を輸入しており、中国、EUに続き世界第3位の大豆輸入大国です。メキシコの大豆国内自給率は4%以下で、日本より大豆の輸入依存度より高くなっています。国内自給率向上のため大豆作を推奨した結果、2003年から2016年で作付け面積は4倍に増加し、今後も大豆栽培は増えていくと予想されています。大豆栽培の増加に伴い、熱帯・亜熱帯地域の大豆生産において深刻な影響を及ぼしているダイズさび病がメキシコでも問題となっています。2005年に最初の発生が確認されてから、さび病は最も主要な大豆病害の一つになりました。2014年、国際農研とメキシコ国立農牧林研究所(INIFAP)は包括的農業研究協力覚書を締結し、以降、ダイズさび病の分析と有効な抵抗性品種の開発に関する共同研究を実施してきました。

その共同研究の一環として、メキシコで発生しているさび病菌に対して安定した効果を発揮するさび病抵抗性を明らかにするため、大豆圃場で発生しているさび病菌の抵抗性遺伝子に対する病原性を調査しました。その結果は論文にまとめられ、米国植物病理学会誌の一つPhytoFrontiersに「Virulence Diversity of Phakopsora pachyrhizi in Mexico」と題して掲載されています。著者はINIFAPのJulio César García-Rodríguez、国際農研 生物資源・利用領域の山中直樹主任研究員らです。この度、この論文が「2021年の優秀学生論文賞」の佳作に入賞しました。本賞は、アメリカ植物病理学会誌、Phytopathology、Plant Disease、Molecular Plant-Microbe Interactions、Plant Health Progress、Phytobiomes Journal、PhytoFrontiersの各誌に掲載された論文のうち、筆頭著者が学生である優秀な論文をそれぞれ表彰するものです。また、この論文は「2021年の優秀学生論文賞」の他に編集者推薦論文「Editor’s Picks」にも選出されています。

本研究では、2016年から2019年にメキシコの主要なダイズ栽培地のうちおおよそ1,000km離れたタマウリパス州とチアパス州からダイズさび病菌を収集しました。次に、得られたダイズさび病菌を既知の7つのさび病抵抗性遺伝子(Rpp1~Rpp6, Rpp1-b)をそれぞれ持つ品種と、抵抗性遺伝子を持たない感受性品種、国際農研の育成した3遺伝子を集積した系統(Rpp2+Rpp4+Rpp5)に接種してその病原性を評価しました。また、得られた病原性データを既に公表している2015年のタマウリパス州とサンルイスポトシ州で得られたさび病菌のデータと共に分析しました。その結果、これらのさび病菌は南米型の病原性の特徴を持ったさび病菌グループと北米型の特徴を持ったグループに大別され、2016年から2019年にタマウリパス州とチアパス州から収集したダイズさび病菌はそれぞれのグループに含まれることが分かりました。この論文の知見は、2021年の国際農研成果情報「メキシコのダイズさび病菌の病原性は2つの傾向に大別される」でも紹介されています。

この論文では、3種の抵抗性遺伝子を集積したダイズ系統の抵抗性が、本研究で得られた全てのメキシコのさび病菌に対して有効なことも示されています。INIFAPのダイズ品種にこの安定的な抵抗性を付与するため、国際農研とINIFAPはさび病抵抗性の新品種開発を共同で実施しています。このさび病抵抗性のダイズ新品種が、メキシコの大豆生産性の向上と殺菌剤による環境負荷の軽減に寄与することが期待されます。

Julio César García-Rodríguez, Zeferino Vicente-Hernández, Manuel Grajales-Solís, Naoki Yamanaka (2022) Virulence diversity of Phakopsora pachyrhizi in Mexico. PhytoFrontiers 2 (1): 52-59 https://doi.org/10.1094/PHYTOFR-06-21-0044-R

 


(関連するページ)

•    国際農林水産業研究成果情報2021「メキシコのダイズさび病菌の病原性は2つの傾向に大別される」https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2021_b05

•    Pick up 562. パラグアイで開発したダイズさび病抵抗性新品種の特性 https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220621

•    Pick up 532. バングラデシュにおけるさび病菌の病原性の変化 https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220510

•    Pick up 471. 世界への大豆生産の広まりと研究 https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220203

•    生物資源・利用領域の山中主任研究員が世界のダイズさび病研究の主要著者トップ10入り https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2020/r20200806

•    ダイズさび病抵抗性大豆 2品種をパラグアイ共和国で品種登録 https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20190822

(文責:生物資源・利用領域 山中直樹)
 

 

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