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260. グローバル化社会における人類の活動と生物圏

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2021年3月22日、プラネタリー・バウンダリー概念の提唱者である Johan Rockström博士も共著者として参加した論文「人新世の生物圏における我々の未来 Our future in the Anthropocene biosphere」 が、Ambio誌で公表されました。


世界人口は1800年には10億人で20億人に達したのは1930年でした。その数が倍の40億人に達したのは1974年、現在はさらに倍の80億に達するかというところですが、世界人口は21世紀末までに90-110憶人に達すると予測されています。

過去1世紀の間、とりわけ1950年代以降、化石燃料の利用、社会組織や技術の革新と文化の展開に伴い、人類の経済活動は加速的なスピードでグローバル化していきました。グローバル化は人権概念や国際協調枠組の構築を通じ、少なくとも文明の滅亡を伴う大規模な衝突の回避に貢献してきました。世界の大多数の人々の生活の物質水準は向上し、寿命も大幅に伸びました。先進国と途上国の違いは曖昧になり、グローバル経済活動は世界中に展開していきました。


論文は、人類は地球上の全ての種の進化を改変する支配的な要因であるとしています。現在、氷に覆われていない地球の表面の75%が人為的活動によって改変され、同様に、海洋も人類の活動の影響が及ばない箇所はありません。現在の世界人口は、重量換算で全ての野生哺乳類動物の10倍に相当すると推計されています。さらに家畜を加えれば、地球上の哺乳類のうち野生動物の割合はわずか4%ほどとなり、家禽類は野生鳥類の重量の3倍を超えるとされます。作物・家畜・樹木・微生物の再生産にかかわる収穫の人為的な選択や化学的な汚染過程を通じて、人類は直接・間接的に種の生存と滅亡を決定し、地球を覆う生物圏を改変しています。こうした人類による活動が累積することにより、今やプラネタリー・レベルで地球システムとその生物圏に影響を及ぼすようになっています。このようなかつてない規模での人間活動の拡大の時代を「人新世(the Anthropocene)」と称します。

著者らは、新型コロナ・パンデミックや気候変動・生物多様性喪失といったシステムレベルでの攪乱が起きている現状を人為的な要因にもとめ、持続的でレジリエントなグローバル社会を構築する上で、経済活動の在り方を見直し、生物多様性を支える生物圏維持の重要性を訴えました。

カロリーベースで6割の食料を国際市場に依存する日本は、科学技術イノベーションを通じた国際協調に積極的に貢献する必要があります。とりわけ、今後も人口増が見込まれ、世界の食需要の質・量の大きな変化が予測されている途上国では、持続的な供給面で課題があり、プラネタリー・バウンダリーの領域内で気候危機に対するレジリエントなシステムを構築する必要があります。国際農研は、開発途上国における農林水産業技術開発を通じて、国際連携に貢献しています。

参考文献
Folke, C., Polasky, S., Rockström, J. et al. Our future in the Anthropocene biosphere. Ambio 50, 834–869 (2021). https://doi.org/10.1007/s13280-021-01544-8
(文責:研究戦略室 飯山みゆき)
 

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