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232. 日々の気温変動による経済成長への影響

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気候変動は地球規模での気温上昇をもたらすことで、干ばつ、洪水、森林火災、熱波やスーパー台風などを引き起こしています。気候変動研究では毎年の平均気温変化が経済抑制効果を持つことについて議論される一方、日々の気温変動のインパクトについては十分論じられてきませんでした。2021年1月は寒波の影響もあり、東京でも数年ぶりに寒い日々が続きましたが、急に気温が上昇する日もありました。例えば1月10-16日の週、東京の最高気温は8℃、7℃、 6℃、13℃、15℃、9℃、19℃、と前半は寒く後半は暖かくなりましたが、15日-16日には気温が乱高下してその差は10℃もありました。 気象庁は、異常気象など平年から大きくかけ離れた天候が社会的に大きな影響をもたらしているとします。  

2021年2月、Nature Climate Change誌にて公表された論文は、日々の気温の乱高下も経済成長を抑制しうると論じました。著者らは、1,537地域の40年間のデータ分析に基づき、季節平均からの大きな乖離を繰り返すような日々の気温変動は、作物生産、人々の健康、商品の売上等への影響を通じ、実質経済成長率を平均で5%抑制させうると推計しました。日々の気温乱高下のインパクトは季節間気温差や所得に依存し、低緯度の低所得地域が最も脆弱であるとされます。例えばカナダやロシアのように、季節間気温変動が40℃もある地域では日々の気温変動が1℃増すごとの損失は3%ですが、季節間気温変動が3℃程度のコロンビアやインドネシアなどの地域では10%以上の損失が予想されます。高緯度の国々はもともと大きな気温変動へのレジリエンスを有するのに対し、低緯度には当てはまらないからです。さらに同じ緯度にあっても、先進国に比べ貧困国の方が被害を被るとされています。

国際農研の「熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発」プログラムにおいては、開発途上国において気候変動に対する作物のレジリエンスに関するメカニズムや栽培法について研究を行っています。 また、気候変動の影響からは、開発途上国農業のみならず、日本の農業も無縁ではいられません。日本では、南北に長い国土の様々な気候・気象条件に応じて、おいしくてそれぞれに地域に適応したコメ品種が生みだされてきました。しかし温暖化や異常気象が進む中、今後日本各地において高温による登熟不良など従来の品種では対応できない現象も出始めており、将来、品質が低下したり、安定的に十分な収量を得られなくなることも危惧されてきています。国際農研の石垣島に熱帯・島嶼研究拠点では、気候変動による天候不順等に備え、熱帯・亜熱帯地域のコメ品種遺伝資源および育種素材の保存と利用に向けての橋渡し的な役割を通じ、国際的な協力体制を確立を目指しています。 


参考文献

Day-to-day temperature variability reduces economic growth, Nature Climate Change (2021). DOI: 10.1038/s41558-020-00985-5, www.nature.com/articles/s41558-020-00985-5

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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