非湛水管理による水稲栽培が群落内気温の日変化と収量に及ぼす影響

国名
ガーナ
要約

熱帯の灌漑水田において、非湛水管理による水稲栽培が開花時刻(午前)の群落内気温と高温不稔に及ぼす影響は小さい。しかし、乾季の出穂期間中に非湛水管理を行うと、午後から夜間の群落内気温が上昇し、収量が低下する。

背景・ねらい

生育期間の一部、もしくは全体を通して、土壌水分の高い畑状態でイネを栽培する非湛水管理は、水資源の持続的利用や温室効果ガスの削減に貢献することが期待できる。一方で、制御環境でのポット実験の結果から、イネを非湛水条件で栽培した場合、土壌水分を高く維持しても、穂温が上昇し、高温不稔*が助長される可能性が指摘されている(Jagadish et al., 2015, Plant Cell Environ. 38: 1686–1698)。しかし、熱帯の野外環境において、水管理の違いが、イネの高温不稔を引き起こす開花時(午前中)の群落内気温や収量に及ぼす影響は知られていない。そこで、本研究では、ガーナ北部の灌漑水田を対象に、自立型気象観測装置MINCER**を用いることで、高温ストレスに最も脆弱な出穂期間中の非湛水管理が、イネの群落内気温、不稔率、および収量に及ぼす影響を明らかにする。

* 高温不稔:イネの開花時刻(通常、午前中)に高温になると、葯の裂開が妨げられ、不稔が発生する。開花時刻を過ぎれば、高温にさらされても不稔への影響は小さいことが知られている。
** MINCER (Micrometeorological Instrument for Near Canopy Environment of Rice):イネ群落内の気温と湿度を精密かつ簡便に観測できる装置(平成22年度農業環境技術研究所研究成果情報「イネ群落内の微気象を捉える自立型気象観測パッケージMINCER」)

成果の内容・特徴

  1. 栽培時期(2016、2017年の雨季作と2017、2018年の乾季作)や品種(IR64, Jasmine85)に関わらず、開花時刻(開花始めから開花ピークまでの時間)における群落内気温差(非湛水管理−常時湛水)は、雨季作が0~0.1℃、乾季作が0.2~0.3℃であり、非湛水管理が開花時刻の群落内気温に及ぼす影響は小さい(図1)。
  2. 栽培時期、品種、水管理に関わらず、イネの不稔率は2.3%~11.8%と低く、開花時刻の群落内気温と同様に、非湛水管理がイネの高温不稔に及ぼす影響は小さい(表1)。
  3. 乾季に非湛水管理を行うと、常時湛水に比べて、日没前後3時間の群落内気温差の平均値が0.7~0.9℃高くなり(図1)、試験地点および熱帯地域の代表的な水稲品種であるJasmine85およびIR64の収量が、有意に低下する(表1)。雨季作では、水管理の違いによる日没前後3時間の群落内気温差の平均値は0~0.2℃と小さく、収量への影響はみられない。

成果の活用面・留意点

  1. 本成果は、水不足と高温の両方のリスクをもつ熱帯の水稲生産において、栽培時期に応じた適正な水管理技術の導入に活用できる。
  2. 乾季の非湛水管理が収量低下を引き起こす要因について、今後の研究で明らかにする必要がある。

具体的データ

  1. 図1 水管理および栽培時期の違いが出穂期間中の群落内気温に及ぼす影響

    水田の端から5m以上内側にMINCERを設置し、穂の位置で群落内気温を連続測定した。出穂日の3日前を起点にした晴天日7日間の平均値を2分毎にプロット。乾季作と雨季作ともに品種と年次で同じ傾向を示したため、2017年のIR64のデータを代表して図示した。開花時刻は、群落上に設置したデジタルカメラのインターバル撮影(10分毎)により推定した。 

  2. 表1 水管理の違いが乾季作と雨季作におけるイネの収量および不稔率に及ぼす影響

    品種 水管理* 不稔率 (%)   収量 (t ha-1)
    雨季作 乾季作   雨季作 乾季作
    2016年 2017年 2017年 2018年   2016年 2017年 2017年 2018年
    IR64 常時湛水   2.4b  8.9a   4.1b  4.0a      6.1ab   5.2a   6.1b   6.3b
      非湛水   2.3b  5.9a    7.5ab  8.9a     5.4b   5.0a   5.2c   4.7c
    Jasmine85 常時湛水   5.7a 10.8a   6.7b  4.2a      6.6ab   5.6a   7.4a   7.7a
      非湛水   2.6b   8.2a 11.8a  7.2a     7.0a   5.5a   6.4b   6.4b

    水管理の異なる圃場内に、各品種5.7m × 4.5mのプロット(群落)を4反復で設けて試験を実施した。
    異なるアルファベットを付した数値は、5%水準(Tukey HSD)で有意。
    *常時湛水:移植から成熟期まで、湛水管理とした。
    *非湛水:両品種の出穂日(約50%の株が出穂した日)前後に、約20日間の連続する非湛水期間を設け、それ以外は湛水管理とした。乾季作と雨季作ともに非湛水期間中の土壌体積含水率(20 cm深)は、30%以上を維持した。ただし、2018年の乾季作のみ、灌漑水の不足で出穂後の非湛水期間が延びて、土壌含水率が26%まで低下した。

所属

国際農研 生産環境・畜産領域

分類

研究

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

受託 » 環境省地球環境保全等試験研究費

研究課題

世界のコメ生産地における気候変動適応策の有効性評価のための耕地環境ストレスモニタリング

研究期間

2020年度(2015~2021年度)

研究担当者

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

吉本 真由美 ( 農研機構 農業環境変動研究センター )

福岡 峰彦 ( 農研機構 農業環境変動研究センター )

Feseini Abraham ( ガーナ国サバンナ農業研究所 )

Inusah Yahaya ( ガーナ国サバンナ農業研究所 )

Dogbe Wilson ( ガーナ国サバンナ農業研究所 )

ほか
発表論文等

Tsujimoto Y et al. (2020) Field Crops Res.
https://doi.org/10.1016/j.fcr.2020.107978

日本語PDF

2020_B12_A4_ja.pdf280.87 KB

2020_B12_A3_ja.pdf284.64 KB

English PDF

2020_B12_A4_en.pdf257.88 KB

2020_B12_A3_en.pdf263.67 KB

ポスターPDF

2020_B12_poster.pdf193.79 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。