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746. 日々の気温の乱高下(day-to-day temperature variability)

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746. 日々の気温の乱高下(day-to-day temperature variability)

ここのところ、気温の乱高下が続いています。桜の開花は歴史的に早くなった一方、3月25日の週末には東京では気温が前日比で10℃以上も下がり花冷えの雨模様となるなど、人間だけでなく植物もびっくりしていることでしょう。コロナ禍以来、3年ぶりにお花見を楽しみにしていた人々や外食産業も影響を受けたのではないでしょうか。

以前も紹介したNature Climate Change誌に掲載された、日々の気温変動と経済成長の関係性を評価した論文内容を振り返りたいと思います。

気候変動によってマクロ経済が影響受けていることは明確です。しかし気候変動による経済への影響に関する分析の殆どは気候変数(climate variable)の年間平均における変化のみを対象としていて、これでは経済損失の計算に見落としが生じると論文著者らは訴えました。著者らはとくに、年間平均気温(annual average temperature)ではなく、日ごとの気温の変化(day-to-day variability)に着目しました。その上で、筆者らは、日々の気温変動が経済の成長率どのように関連しているかを40年以上にわたって記録された世界1537か所の地域経済データを用いて分析しました。その結果、季節平均からの大きな乖離を繰り返すような日々の気温変動は、作物生産、人々の健康、商品の売上等への影響を通じ、実質経済成長率を平均で5%抑制させうると推計しました。

日々の気温乱高下のインパクトは季節間気温差や所得に依存し、低緯度の低所得地域が最も脆弱であるとされます。季節間気温変動が40℃もある高緯度地域では日々の気温変動が1℃増すごとの損失は3%ですが、季節間気温変動が3℃程度の低緯度地域では10%以上の損失が予想されます。高緯度の国々はもともと大きな気温変動へのレジリエンスを有するのに対し、低緯度には当てはまらないからです。さらに同じ緯度にあっても、先進国に比べ貧困国の方が被害を受けるとされています。


歴史を振り返れば、工業等の発展より多くの国が豊かになっていく経済成長の過程で、大量の温室効果ガスが排出されてきました。一方、今日、気象パターンの変化は世界中の人々の衣食住すべてに影響しています。特に低緯度に位置する途上国や沿岸地域の人々とって気候変動の脅威は深刻で、紛争や対立の要因にもなっています。気候変動と経済成長における利益と損失の折り合いをどこでつけるべきか、政策決定者は難しい決断を迫られています。


(参考文献)
Kotz, M., Wenz, L., Stechemesser, A. et al. Day-to-day temperature variability reduces economic growth. Nat. Clim. Chang. 11, 319–325 (2021). https://doi.org/10.1038/s41558-020-00985-5


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)


 

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