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987. どこで大きいか、気候変動の影響:気温上昇による極端現象の発生予測

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987. どこで大きいか、気候変動の影響:気温上昇による極端現象の発生予測

 

2023年は観測史上最も暑い1年となり、世界の平均気温は産業革命前と比べ1.35℃~1.54℃上昇したことが、コペルニクス気候変動サービスを始めとする多くの研究機関によって発表されました。この記録は、パリ協定の1.5℃目標達成が厳しい状況にあり、さらなる温暖化を招かないようあらゆるレベルで行動の見直しが必要なことを人々に認識させる機会となりました。通常、気温上昇は20年ほどの長いスパンでの継続によって定義されるため、今回のように平均気温が1.5℃上昇した1年間や2℃を超えた1日だけでパリ協定の目標達成が完全に絶たれた訳でははありません。しかしこのままグローバル社会による排出削減の公約が達成できなければ、今世紀中に地球は2.2℃~3.4℃温暖化しかねない可能性もあり、そうなれば人間の暮らしや地球の在り方に大きな変化が生じるでしょう。

PNAS 誌は、世界気候モデルの結果をスケールの小さいレベル(downscale)で解析したインターラクティヴマップで示し、気温上昇の度合いに応じた極端現象の発生頻度の予測に基づき、人の健康・農業生産等が直面しうる課題を示しました。


致命的な熱波と湿度

人は主に発汗することで体を冷やしますが、湿度が高いとこのメカニズムは上手く機能しなくなります。熱波と湿度の組み合わせで計算される湿球温度(wet bulb temperature)では、35℃が人間の生存可能限界とされています。しかし当然ながら全ての人々が一律に同じ影響を受けるわけではなく、個人の暮らし・年齢や職業・健康状態など多くの要素が絡むため、置かれている環境によって受ける影響も経済的損失も異なります。実際の生存限界湿球温度はもっと低く、若者にとっては25.8℃~34.1℃、高齢者層にとっては21.9℃~33.7℃とされています。1500万人の人口を抱えるカルカッタでは、湿球温度が30℃を超えるケースが現在の20日から、3℃の温暖化のもとで50日以上、とりわけ暑い年には130日以上と予想され、人命および経済活動への影響が懸念されます。

 

壊滅的な干ばつ    

気候変動に従い、特に発生の頻度が増加すると予想される干ばつですが、とりわけ水不足による農作物被害をもたらすことが懸念されています。被害の程度も実際は地域の栽培体系や干ばつの発生時期及び期間に大きく左右され、数字上同じ乾燥条件でも発生地域のレジリエンスの差異で被害規模は異なってきます。例えば、気温上昇が3℃に達した場合、2000万人が住む大都市であるエジプト・カイロでは、1年を通して極度の干ばつに見舞われる確率が現在の25%から3℃の温暖化のもとで75%に上昇すると予想されており、地域の穀倉地帯であるナイル川周辺では既に進行している海面上昇と塩水の侵入が相まって、食料輸入に依存するエジプトの農業生産に甚大な影響を及ぼすことが懸念されます。

 

破壊的な洪水

昨年9月にリビアのデルナ市で集中豪雨により2つの主要ダムが決壊し、1万人を超える人命が犠牲になりました。数百年に1度とされていたこのような極端な降雨が、今やいつどこで起こってもおかしくない時代になっています。さらに、極端な干ばつと集中降雨は相関関係にあり、アフリカ・サヘルのような砂漠化が進む乾燥地域において、今後深刻な洪水発生が懸念されています。不測時において人々の暮らしをどう守るか、食料安全保障を確保できるか課題が残ります。

 

実はローカルなもの、気候変動

以上の予測、とりわけ3℃の温暖化は、避けられない出来事ではありません。気温上昇を2℃より低く抑えるような野心的なアクションをとることで、気候変動のローカルなインパクトを回避することは可能です。一方、多くの人々にとり、気候変動は地球規模で議論され、世界平均に関する数字が飛び交うため、身近に感じられないこともあるでしょう。抽象的な世界平均の数字に関する議論から一歩踏み込み、人々が暮らしの中で経験しうる極端現象に関連付け、政策対話を行う必要があります。気候変動の予測結果をもっとローカルで身近に起こっていることと関連づけることで、予測をめぐる不確実性を改善することが可能です。

 

(参考文献)Where will climate change hit hardest? These interactive maps offer a telltale glimpse. By Peter Aldhous, Data Journalist February 28, 2024. PNAS. 
https://www.pnas.org/post/update/climate-change-interactive-maps-offer-…


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

 

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