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889. 極端現象に晒される世界における水不足のセクター別インパクト

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889. 極端現象に晒される世界における水不足のセクター別インパクト 

 

増え続ける世界人口と経済発展に応じ、生活用水から農業・工業・エネルギーなどの様々な分野での水利用は増加傾向にあります。さらに、極端現象の頻度の上昇はしばし水不足をもたらし、分野ごとに異なる水利用レスポンス(反応)を伴います。しかし、極端現象発生時における水利用とその分野別の違いに関する詳しい研究はこれまで限られてきました。

最近、Environmental Research Letters誌で公表された論文は、地域規模から地球規模の分野別の水利用レスポンスを調査しました。具体的には、1990年~2019年における期間、グローバル~国(米国)~地域(大都市)レベルデータをもとに、生活用水・灌漑・家畜・熱電・製造業(domestic, irrigation, livestock, thermoelectric and manufacturing)分野ごとに、干ばつ・熱波・及びそれらの複合的な極端現象の水利用(取水量・消費量)インパクトの数量化を試みました。

分析の結果、極端現象発生時の水利用パターンは分野・地域ごとに大きく異なりました。その背景として、様々な要因(人口密度・気候条件・水供給システムアクセス・公共水管理計画・規制制度)が複雑に絡み合い、水利用レスポンスが似ている地域パターンを見出すのが困難であったのも原因です。それでも、次のことが浮かび上がりました。


社会経済的要因による水利用の違いとその事例

オーストラリアの干ばつや、カナダ・ヨーロッパ諸国における熱波の発生時、生活用水の利用は増加した一方、長期にわたる干ばつ経験を持つアメリカのカリフォルニア州においては極端現象が生活用水の利用を減少させました。灌漑部門に関しては、熱波において短期的に灌漑用水の利用は増加しましたが、干ばつが長期化するにつれ水不足に陥り水利用も減りました。イラン、アメリカ、ヨーロッパの事例では、熱波またはその複合的現象によって熱電用水(冷却水としての利用等)の需要が増加する一方、冷却水利用可能性が下がることで発電量低下をもたらしました。


公共部門水管理計画体制等による水利用の違いとその事例

熱波等の極端現象発生時において、水利用に関し国が定めた優先事項や、制度・規制が水利用レスポンスに影響をもたらすようです。多くの国の場合、生活用水、続いて農業(灌漑・家畜)が優先される傾向にある一方、環境保護政策にのっとり極端現象発生時に水利用を規制することも期待されています。しかし極端現象時の国レベルでの対応は、同じ地域内でも異なるようです。例えば、大規模干ばつ等の際、ドイツでは生活用水に使用制限と罰金を課す一方、オランダは生活用水の節水勧告にとどまりました。対照的に、灌漑分野に関しては、熱波期間中、オランダの一部州で取水が禁止される中、英国では農民は河川から農業用水の取水増加を許可されました。

 


このように極端現象時の水利用は単なる水不足とその需要の関係を超え、社会経済的背景、制度や規制、優先事項によりレスポンスの在り方は異なります。利用する水の量だけでなくその供給先や資源量の変動につながることもあります。社会経済的要因と公共の水管理計画体制が強く影響するため、万能な対策はなく、背景と実態に合った政策策定が重要となります。

著者らは、現在そして今後、水需要が高まる一方で極端現象の頻度が増すと予測される中、水不足の軽減、水管理戦略を改善するために分野別、地域別のさらなる細やかなデータ収集の必要性を訴えました。


(参考文献)
Gabriel A Cárdenas Belleza et al 2023 Environ. Res. Lett. 18 104008 https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/acf82e

(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)

 

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