Pick Up

123. Lancet Planetary Health: 新型コロナウイルス感染症と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)におけるフードシステムの未来

 

2020年8月、Lancet Planet Health誌にて、「新型コロナウイルス感染症と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のもとでのフードシステムの未来」論説が発表されました。

COVID-19パンデミックはフードシステムの脆弱性への警告であると同時に、気候危機によってもたらされうる栄養安全保障・保健医療への脅威でもあります。パンデミックと気候危機という2つの危機は、異なるメカニズムを通じてフードシステムに影響を及ぼしますが、双方とも最も脆弱な社会層への影響が大きく、グローバルフードシステムの転換の必要性を強調しています。

2019年LANCET委員会は人類・地球の健康の双方との関係でフードシステムの果たす重要な役割を強調しました。食料安全保障の問題と質の低い食生活は栄養不良・微量栄養素不足・肥満率の上昇等をもたらし、COVID-19感染による入院・死亡率上昇のリスクを高めます。我々のフードシステムは、栄養的視点から人類を持続的に支えることに失敗しているのみならず、未だかつてない生物多様性の喪失、環境汚染、水不足を引き起こす環境劣化において単一で最大の要因となっています。2019年、「EAT-Lancet委員会―人新世*におけるフード:持続的フードシステムからの健康な食生活」は、プラネタリー・ヘルス・ダイエット (地球にとって健康な食事;the planetary health diet)を提唱しました。プラネタリー・ヘルス・ダイエットは、豆類・ナッツ・魚・全粒穀物に加え、たくさんの果物や野菜の摂取を推奨する一方、動物由来の食物(高所得国)・過度に加工された食品・遊離糖類(蜂蜜やシロップ、果汁に存在する糖類および食品・飲料に添加する糖類:free sugars)の摂取量削減を呼び掛けています。さらに著者らは、農業慣行の変革・食生活パターンの変更・各分野におけるフードロスの大幅な変化がなければ、パリ協定**の目標を達成することは不可能であるとしています。

国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)25期間中に意識調査を実施し、COP25全参加者の1%に相当する278の回答結果***についてCOVID-19の点も踏まえて整理し、以下の提言がまとめられました。

  • 気候変動交渉における保健医療問題の重要性が増しており、パリ協定を満たす上で、各国が自主的に決定する貢献(Nationally Determined Contributions :NDCs)に食生活の変化を含むフードシステムを含めるべきです。
  • 「農業に関するコロニビア共同作業」****ワークショップの始動を受けて、UNFCCCは気候変動交渉において農業問題を取り上げるべきです。このワークショップでは食料生産慣行のみに着目していますが、パリ協定の達成には大幅な食生活習慣の変化なしに困難です。したがって、UNFCCCの農業、林業およびその他土地利用(Agriculture, Forestry and Other Land Use)において、食料生産・フードロス問題・食生活の変化を含むべきです。
  • 現在かつ将来のUNFCCCの食事を伴うイベントの場で、持続的な食生活の例を示してほしい。グラスゴーで開催されるCOP26は、好例を示すよい機会であると言えます。

 

* 人新世(Wikipedia) - 人新世(じんしんせい、ひとしんせい、英: Anthropocene)とは、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える発端を起点として提案された、想定上の地質時代。

**パリ協定: 2015年にパリで開かれたCOPで合意され、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑えるため、温室効果ガス排出量を削減することを目指す。京都議定書が先進国のミニトップダウンで排出削減目標が課せられたのに対し、パリ協定では公平性および実効性の観点から、途上国を含む全ての参加国に自主的な取り組み(Nationally Determined Contributions: NDCs)を促すアプローチが採用されている。

*** 意識調査結果(84か国の代表、うち210がNGO代表者、57がparty delegates、11が国連機関の代表者による回答)

****「農業に関するコロニビア共同作業」2017年のCOP23で採択され、気候変動に対応した技術開発やその普及の推進を目的とする。

 

参考文献

Gralak S, Spajic L, Blom I, et al. COVID-19 and the future of food systems at the UNFCCC. Lancet Planet Health 2020; 4: e309–11. https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(20)30163-7/fulltext

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)