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98. The Lancet:新型コロナウイルスによって消耗症の子供が670万人増加

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医学雑誌ランセット誌(The Lancet)に「新型コロナウイルスが子供の栄養不良と栄養関連死に与える影響」というコメント(特定のテーマに対する短めの論文)が掲載されました。

新型コロナウイルスパンデミックによって引き起こされた、世界全体にわたる社会的・経済的危機は、低所得国および中所得国(LMIC)の子どもたちの栄養状態と生存に重大なリスクをもたらします。特に懸念されるのは、所得が急激に減少し、栄養価の高い食品が入手できなくなり、健康・栄養・社会保障に関するサービスが中断されることによる、消耗症を含む栄養不良の増加です。

LMICの5歳未満の子供の死亡の10分の1は、消耗症(wasting。身長に対して体重が軽すぎる状態で、急性的な栄養失調を示唆する)に関連すると言われます。消耗症により他の疾患に感染しやすくなり死亡のリスクが高まるのです。コロナ以前は、推定4700万人が消耗症で、そのほとんどはサハラ以南のアフリカと南アジアに住んでいました。

新型コロナウイルスパンデミックによる経済、食料、健康システムの混乱は、あらゆる形態の栄養不良を悪化させ続けると予想されます。今年中に、1億4000万人が極度の貧困状態に追い込まれ(IFPRI)、食料不安に直面するLMICの人々は2億6500万人と倍増し(WFP)、不可欠な栄養サービスのカバー率は全体で30%減少する(UNICEF)と見込まれています。

栄養学、経済学、食料・健康システムの研究者の学際的なコンソーシアムであるStanding Together for Nutritionは、新型コロナウイルスが栄養問題に与える影響を3つのアプローチでモデル化しています。

1)MIRAGRODEPのマクロ経済予測を用いた1人あたり国民総所得(GNI)への影響分析

2)人口統計調査(DHS)データを用いたGNIが消耗に与える影響のミクロ経済的推定

3)The Lives Saved Tool(LiST)を用いた国別の医療サービス・消耗・死亡率の関連付け

これまでの推計では、第一に、マクロ分析から、移動制限やフードシステム寸断によってほとんどのLMICで1人あたりGNIが平均7.9%減少します。第二に、ミクロ経済モデルの予測から、一人あたりGNIの減少は消耗症の大幅な増加(14.3%)をもたらし、新たに670万人の子供が消耗症(57.6%は南アジア、21.8%はサブサハラアフリカ)になります。第三に、各国での消耗症の増加予測と、栄養およびヘルスサービスのカバー率の年平均25%の減少とを組み合わせると、5歳未満の子どもの死亡が12万8605人(52%はサブサハラアフリカ)増加します。

これらの予測は、子どもの栄養状態が悪化するのを防ぐための行動の必要性を強調しています。新型コロナウイルスはあらゆる形態の栄養不良のリスクを高めるうえ、この危機がいつまで続くかも不明であり、ここで提示された消耗に焦点を当てた推定を超えるかもしれません。世界銀行は2017年に、SDGsの栄養目標を達成するためには10年間で年間70億ドルが必要であると推定しましたが、この推定値を上方修正する必要もあるでしょう。

参考文献

Derek Headey, Rebecca Heidkamp, Saskia Osendarp, Marie Ruel, Nick Scott, Robert Black, Meera Shekar, Howarth Bouis, Augustin Flory, Lawrence Haddad, Neff Walker, on behalf of Standing Together for Nutrition consortium (2020). “Impacts of COVID-19 on childhood malnutrition and nutrition-related mortality.” The Lancet.

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31647-0

Accessed on July 29

(文責:研究戦略室 白鳥佐紀子)

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