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53. The Lancet論説 ― 気候変動と熱中症

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そろそろ日本でも熱中症の危険がある季節に突入します。農林水産業のテーマとはそれますが、気候変動・環境変化が熱中症など人間の健康に与える影響を把握する必要性を訴えた、2020年5月にThe Lancet誌で公表された論説 (Longden et al.)を紹介します。

オーストラリアの死亡数記録は、熱中症関連の死亡数を過小評価していることを示しています。2006年から2017年までの170万件の死亡数のうち、間接・直接的に熱中症に起因する死亡率は0.1%以下に過ぎませんでしたが、最近の研究によると公式な統計は少なくとも相関を50倍少なく見積もっているとしました。人間の健康に環境要因が及ぼす程度について理解することは、気候変動のインパクトを正確に把握する上でも重要です。

異常な環境災害が日常化するにつれ、地域・国レベル・世界レベルでの対応策の指針とするエビデンス提供のために、因果関係の分析が必要となります。

熱中症からの死亡を過小評価する問題は、雷による事故の死亡のケースと似ています。倒木や火事による建物の崩壊に巻き込まれたことが直接の死因とされ、死因に間接的に関わっている雷については言及されることがないというように。死亡原因を報告するシステムの問題に対し、多くの国では死亡証明書と記録法の近代化を進めようとしています。

2019-20年のオーストラリアにおける熱波と山火事のような予測不可能でグローバルスケールの気候・環境災害を踏まえれば、大規模な環境災害のインパクトを反映して死亡率を記録するシステムが求められています。

死亡記録と気温データ源を合わせて気温関連の死亡数を推計することが重要であるにもかかわらず、最も脆弱である熱帯地域の20億人以上の人々に対し、正確なデータを把握するための資源が限られています。

気候変動は多くの人々にとっての懸念ですが、異常な気温の影響について記録がなければ、そのインパクトの理解は不可能です。死亡証明のシステムは近代化されるべきであり、大規模な環境データベースと合わせて、間接的な死亡要因も記録されるべきです。

 

参考文献

Longden T et al. (2020)  Heat-related mortality: an urgent need to recognise and record. The Lancet Planetary Health.  CORRESPONDENCE| VOLUME 4, ISSUE 5, E171, MAY 01, 2020 May, 2020 DOI:https://doi.org/10.1016/S2542-5196(20)30100-5 

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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