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97. The Lancet: 195か国・地域を対象とした2017年から2100年の出生率・死亡率・国際移動・人口シナリオ

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The Lancet誌は、「195か国・地域を対象とした2017年から2100年の出生率・死亡率・国際移動・人口シナリオ」論文を公表、国連が発表する世界人口予測よりも低い値になるとの推計を提示しました。

年齢構成、資源・ヘルスケアニーズ、環境・経済問題を検討する上で、将来の人口水準がとりうるパターンを理解することは極めて重要です。将来の出生率パターンは将来の人口規模予測に欠かせない変数ですが、その推計と予測には様々な方法論により大きな不確実性が伴います。人口規模・年齢構成の変化は、多くの国々において経済・社会・地政学的インパクトをもたらします。本研究においては、死亡率・出生率・人口移動・人口予測について新たな手法を開発し、将来の人口動態の経済・地政学的影響について評価を行いました。

参照シナリオにおいて、世界の総出生率(Total Fertility Rate: TRF)は2100年に1.66と予測され、世界人口は2064年に97.3億人(88.4-109億人)でピークに達し、2100年に87.9億人(68.3-118億人)に減少すると予測されています。このシナリオのもとで、2100年に最大の人口を抱えるトップ5の国は、インド、ナイジェリア、中国、アメリカ、パキスタン、になります。また2100年までに多くの国で年齢構成のシフトがおき、65歳以上の人口が増えます。2050年までに、151か国において総出生率が人口置換率(総人口の維持に必要な出生率)を下回り、2100年には183か国で総出生率が人口置換水準を下回ります。参照シナリオにおいて、日本、タイ、スペインを含む23か国で2017年から2100年において50%以上の人口減少を経験します。中国の人口は48%減が予測されています。

本研究では、女性の教育水準の向上と避妊へのアクセスが出生率の減少と人口増加率の減速をもたらすと予測されます。本研究の参照シナリオ予測による2100年の世界人口は、国連などの予測よりもずっと低いものとなっています。本研究と国連世界人口予測(https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20190618)の乖離の3分の1はサブサハラアフリカにおける出生率下落を速く見積もり、3分の2はとりわけ中国とインドにおける人口置換率よりも総出生率が低く期待されていることに起因しています。本研究はまた、出生率が人口置換率より低いアメリカ、オーストラリア、カナダでも、純移民流入によって労働人口世代を維持することが予測されています。本予測は、人口増の縮小は環境、気候変動、食料生産にポジティブな効果をもたらしつつも、出生率下落の著しい国々において、労働力維持、経済成長、社会保障システムなど負の影響をもたらしうることを示唆しています。 

 

参考文献

Stein Emil Vollset  et al. Fertility, mortality, migration, and population scenarios for 195 countries and territories from 2017 to 2100: a forecasting analysis for the Global Burden of Disease Study. The LANCET. July 14, 2020. DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30677-2  

国際連合「世界人口予測 ・2019年版 [United Nations (2019). World Population Prospects 2019]」概要  https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20190618 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

 

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