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94. 国連: なぜポストCOVIDの世界において持続的なフードシステムが必要とされているか

2020年7月、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、世界食糧計画(WFP)の国連機関は、論説「なぜポストCOVIDの世界において持続的なフードシステムが必要とされているか Why sustainable food systems are needed in a post-COVID world.  」を発表しました。

2020年は世界のフードシステムを再考する年になるでしょう。わずか数か月の間に、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)は世界の半分を封鎖しました。買い溜め行動やフードバンクへの長蛇の列は、我々の生活にとっていかにフードシステムが重要でかつ不安定なもので、ジャストインタイム生産システムに基づく中央集権的なグローバル・フードサプライ・チェーンがショックに脆弱であることを思い起こす契機となりました。多くの国々で、国境封鎖や病に罹患したために労働者が移動できず、収穫や荷詰めが滞るという事態に陥りました。またレストランなどが営業できず、多くの食品ロスが生じました。途上国においては、早めの措置がとられなければ、「飢餓のパンデミック」がコロナウイルス問題を凌駕すると予測されています。

飢え、肥満・過体重、微量栄養素不足という問題を同時に抱えるグローバル・フードシステムのファサード(外見・見せかけ)に既に綻びが生じていたのは明らかです。バランスの悪い食生活のために、免疫が低下し、栄養状態に問題を抱えた人々ほどCOVID-19の犠牲になっています。人的コストは甚大な経済コストも伴っています。

フードシステムの限界は食料栄養供給の問題にとどまりません。モノカルチャー栽培体系や集約的な家畜・養殖システムでの化学肥料過剰使用にもとづく食料生産は、自然資源の劣化を加速し、人為的温室効果ガス排出の4分の1(うち家畜生産がその半分に寄与)の原因となっています。商業的畜産は、狭い空間に多くの家畜を閉じ込めることで、2009年の豚インフルエンザのような致死的なウイルスの温床となり、また抗生物質の大量使用を通じてスーパー耐性菌を拡散します。同時に、農業や狩猟により手つかずの生態系が攪乱されることで、重症急性呼吸器症候群(SARS)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エボラなどの強毒な病原菌が異なる種の間を飛び移って感染する状況を作り出します。

COVID-19危機後の経済再建は、グローバルフードシステムを、環境持続性と栄養に富む食料供給を保障し、将来のショックにより強靭なシステムに転換する機会を提供しているともいえます。この実現のために、FAO、UNEP、IPCC、WFPなどの国連機関は、フードシステムにおける次の4つのシフトを提言します。

•           強靭なフードサプライチェーン;ローカルに生産される食料はより効率的な配分を可能とし、栄養不良や食料価格急騰などの食料安全保障のリスクを低め、ローカルでの雇用創出にも貢献します。小規模生産者や小売業者のエンパワメントに繋がるような農村社会の転換を必要とします。

•          健康な食生活;先進国における動物食品や加工食品の過剰消費を減らし、途上国における栄養に富んだ食品へのアクセスを改善することで、厚生と土地利用の効率性の改善、健康的な食品のアベイラビリティー向上、二酸化炭素排出の削減、なども期待できます。農業補助金を健康な食品に回す一方、不健康な食品への課税を行い、調達システム・教育プログラムやヘルスケアシステム をよりよい食生活推進のために振り分けることは大きな役に立つでしょう。このことは同時に、世界的なヘルスケア費用の削減や不平等解消に貢献し、次のパンデミックの影響を緩和することが期待されます。

•           再生的な農業;ローカル・地域的なフードシステムに根付いた持続的で再生的な土地・海洋利用農業への移行は、土壌・大気・水を癒し、経済強靭性と雇用創出を後押しします。そのためには、持続的農業の促進、市場アクセスの改善、小規模で持続的な農民に対する金融・規制等の支援の活用が必要です。

•          環境保全;先進国における植物性食品に基づく食生活へのシフトに合わせて、飼養される家畜数を削減することで手つかずの生態系を保全することが可能です。地球上の植物・野生動物保護の枠組みのもとでの保全に向けた努力は、生物多様性を回復し、炭素を隔離し、将来のパンデミックリスクを削減するために欠かせません。

フードシステムは、人間・動物・経済・環境が交わる交差点であるともいえます。この関係性に注意を払わなければ、気候変動と世界人口の増加に伴い、世界経済はさらなる医療・金融危機に直面しかねません。ポスト・コロナ時代におけるフードシステムの改革を優先することで、SDGsとパリ条約達成へ大きな一歩を踏み出せます。かつてウインストン・チャーチルが述べたとされる名言があります。「どんな国にとっても、健康な市民が最大の資産である」。

参考文献

United Nations. Why sustainable food systems are needed in a post-COVID world.  Nicoletta Batini (International Monetary Fund), James Lomax (United Nations Environment Programme), and Divya Mehra (World Food Programme) 14 JUL 2020 https://www.unenvironment.org/news-and-stories/story/why-sustainable-fo…

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)