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1572. 病原性を測る世界共通の「ものさし」の開発史と国際的な貢献

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1572. 病原性を測る世界共通の「ものさし」の開発史と国際的な貢献

 

国際農研と国際稲研究所(IRRI)が、日本の研究者の知見と国際共同研究を基盤として長年にわたり開発・活用してきた、イネ白葉枯病菌およびいもち病菌の病原性を評価する世界共通の「ものさし」の開発史と、世界的な普及・利用をまとめた総説論文が、国際学術誌 The Plant Genome に掲載されました。本論文では、国際共同研究によって整備・発展してきた抵抗性系統と国際ネットワークが、病原菌集団の監視、抵抗性遺伝子の解析、持続的な抵抗性品種の育成に果たしてきた役割を包括的に紹介しています。

「ものさし」となるのが、白葉枯病抵抗性準同質遺伝子系統(IRBB)およびいもち病抵抗性準同質遺伝子系統(IRBL)です。準同質遺伝子系統とは、共通の遺伝的背景を持ちながら、特定の病害抵抗性遺伝子だけが異なる系統です。これらの系統を用いて人為的な接種試験を行うことによって、抵抗性を発揮する遺伝子と、病原菌によってすでに抵抗性が打破されている遺伝子を識別することができ、国際的に共通の評価尺度で病原性を「測る」ことができます。

世界共通の「ものさし」の利用によって、研究者や育種家は国境を越えて病原菌の特徴を比較し、有効な抵抗性遺伝子を効率よく活用できるようになりました。病原菌の変化を見逃さず、適切な抵抗性遺伝子を使い続ける仕組みは、抵抗性品種の育成と安定したイネ生産を支える基盤となっています。

 

日本の知見を国際基盤へ

日本では、いもち病抵抗性、病原菌レースの判別、抵抗性遺伝子の利用に関する研究が長年にわたり進められてきました。国際農研は、こうした日本の研究蓄積をIRRIとの共同研究に結び付け、いもち病抵抗性遺伝子に関するIRBLの開発・体系化と、その評価手法の標準化に貢献してきました。日本とIRRIの協働によって整備されたこれらの系統と評価手法は、病原菌の病原性を国や地域を越えて比較するための共通基盤となりました。この成果は各国の研究機関・育種機関へと受け継がれ、病原菌の監視と地域の病害リスクに応じた抵抗性品種の育成を支えています。

 

世界の稲作を支える共通基盤

IRBBおよびIRBLは、1980年代以降の国際共同研究を通じて整備され、アジア、アフリカをはじめとする世界各地の研究機関・育種機関に配布されてきました。特にいもち病のIRBLの普及には、国際農研が主導した国際いもち病研究ネットワークが重要な役割を果たしました。このネットワークでは、日本、フィリピン、中国、韓国、ベトナム、タイ、バングラデシュ、インドネシア、ラオス、カンボジア、ケニアなどの研究機関が参加し、共通の抵抗性系統と評価手順を用いて病原菌の多様性を解析してきました。国際的に標準化された評価体系の開発により、国や地域を超えて病原菌の変化を比較し、地域の病害リスクに応じた抵抗性品種育成を進める基盤が構築されました。

 

抵抗性品種の育成へ

単一の抵抗性遺伝子に依存すると、病原菌が進化して抵抗性を打破する可能性があります。そのため現在は、複数の抵抗性遺伝子を集積する「遺伝子集積(ピラミディング)」と、「病原菌情報に基づく育種」が重視されています。

IRBB・IRBLは、こうした抵抗性育種の母本としても活用されてきました。例えばインド、バングラデシュ、インドネシアなどでは、これらの系統を利用して明らかとなった病原性情報を元に、現地の白葉枯病菌やいもち病菌に有効な複数の抵抗性遺伝子を集積した品種や有望系統が育成されています。これらの抵抗性品種の普及は、収量損失の低減に加え、農薬使用の抑制にも寄与することが期待されます。

気候変動に伴う気温、降雨、湿度、栽培体系の変化は、病害の発生様式や病原菌集団にも影響し得るため、病原菌の継続的な監視と適切な抵抗性遺伝子の利用が、今後ますます重要になります。

 

今後に向けて

野生イネや近年のゲノム研究によって発見された新たな抵抗性遺伝子を、世界共通の「ものさし」に取り込むことが必要です。また、白葉枯病やいもち病に加え、紋枯病やツングロ病など他の重要病害についても同様の世界共通の「ものさし」を整備し、より持続的な病害抵抗性育種へ発展させることが期待されています。

国際農研とIRRIが築いたIRBB・IRBLの開発と国際展開は、遺伝資源、病理学、育種、国際連携を結び付け、各地の稲作と食料安全保障を支えてきた取組です。今回の総説は、その歴史的意義を記録するとともに、世界共通の「ものさし」の開発はゴールではありません。気候変動や病原菌の進化に対応する次世代の病害抵抗性育種を支える基盤として、将来の安定的な食料生産に向けて国際共同研究の重要性を改めて示すものです。

 

論文情報
•    題目:History of near-isogenic lines carrying genes for resistance to bacterial blight and blast in rice (Oryza sativa L.)
•    著者:Van Schepler-Luu、Mary Jeanie Telebanco-Yanoria、齊藤大樹、Casiana M. Vera Cruz
•    掲載誌:The Plant Genome
•    DOI:10.1002/tpg2.70300
•    論文URL:https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/tpg2.70300

 

(文責:熱帯島嶼研究拠点 齊藤大樹)
 

 

 

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