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1566. アジアで深刻化する水関連災害と気候リスク:WMO報告から見る背景と今後の備え
1566. アジアで深刻化する水関連災害と気候リスク:WMO報告から見る背景と今後の備え
2026年8月、日本各地では豪雨に伴う被害が相次ぎました。また、ネパールと中国・チベット自治区の国境付近では、氷河を含む急速な斜面崩壊が関与した可能性のある土石流・洪水が発生し、下流の居住地やインフラに大きな被害が及びました。米国地質調査所(USGS)は、この事象について、ネパールのランタン国立公園付近で発生した氷河を伴う斜面崩壊が土石流・洪水を引き起こし、流下は約100 kmに及んだ可能性があるとしています。ただし、発生メカニズムを含む情報は、今後の調査により更新される可能性があります。
洪水、土砂災害、干ばつ、水不足、氷河湖決壊洪水(glacial lake outburst flood: GLOF)など、水に関わる災害は多様な形で発生します。これらは人命、生活基盤、農業生産、水資源管理に直接的な影響を及ぼします。
ここでは、世界気象機関(WMO)の二つの報告書をもとに、水関連災害を地球規模およびアジア地域の気候・水資源の変動のなかで整理します。前半では世界の水資源の変動を扱った「State of Global Water Resources 2021」を、後半ではアジア地域の気候状況をまとめた「State of the Climate in Asia 2025」を取り上げます。
世界の水資源の変動:WMO「State of Global Water Resources 2021」
WMOが2022年11月に公表した「State of Global Water Resources 2021」は、気候・環境・社会の変化が地球の水資源に及ぼす影響を評価するために刊行された、年次報告書シリーズの初版です。WMOはこの報告書において、河川流量、大規模な洪水・干ばつ、陸域貯留量の変化、雪氷圏の重要性と脆弱性に着目し、地球規模の淡水資源を継続的に把握・管理する必要性を示しました。
報告書によれば、2021年には、気候変動およびラニーニャ現象の影響を受けた降水パターンのもと、世界の広い地域で平均より乾燥した状態がみられました。また、過去30年間の水文平均と比較すると、平均を下回る河川流量が観測された地域の面積は、平年を上回る地域のおよそ2倍に達しました。さらにWMOは、国連水関連機関調整委員会(UN-Water)の情報として、2001~2018年までに発生した自然災害の74%が水関連災害であったと紹介しています。報告書は、水が気候変動適応の中心的な課題として位置づける必要性を示すとともに、利用可能で検証された水文データの不足を課題として指摘しています。
アジアの気候と水関連リスク:WMO「State of the Climate in Asia 2025」
WMOが2026年6月17日に公表した「State of the Climate in Asia 2025」は、アジアにおける気温、降水、海洋、氷河、海面水位、極端気象などの状況を整理した報告書です。WMOは、2025年に危険な高温、大雨・洪水、深刻な干ばつ、砂じん嵐などがアジア各地で発生し、人命や経済に大きな影響を及ぼしたと報告しています。
同報告書によれば、2025年のアジアの年平均気温は、1991~2020年平均を0.96℃上回りました。また、使用するデータセットによって差はあるものの、2025年は観測史上2番目から4番目に高温の年に位置づけられています。WMOは、1991~2025年のアジアの昇温傾向が1961~1990年の約2倍であり、近年のアジアは世界の陸域・海洋平均より速く温暖化していると報告しています。
降水について、WMOは、2025年に南アジアの大部分で平年を上回る降水があり、モンスーンによる例外的な大雨が洪水被害につながったと報告しています。一方、西アジアや中央アジアの一部では、平年を下回る降水と長期的な乾燥状態がみられ、水不足が課題となりました。
高山アジア地域では、2025年の氷河学年(2024年10月~2025年9月)に、観測対象となった23の氷河すべてで質量減少が確認されました。WMOは、平年を下回る冬季の積雪量と、5~9月に継続した高温が、天山山脈およびパミール高原を中心とする氷河の大幅な質量減少に寄与したと報告しています。
WMOは、氷河の融解が海面水位、地域の水循環、GLOFなどの局地的な災害に影響すると説明しています。また、2025年には複数のGLOFおよび氷河崩壊が記録されたとしています。氷河の後退・融解は、将来の水資源利用可能性の問題として捉えるだけでなく、山岳地域から下流域まで連鎖し得る災害リスクの問題としても把握することが重要であると考えます。
水関連リスクへの備え
アジアは人口が集中し、農業生産、食料供給、生活用水、産業活動が水資源に大きく依存する地域です。豪雨、洪水、土砂災害、干ばつ、水不足、氷河融解に伴う災害は、個別の現象としてのみ捉えるのではなく、気候システム、水循環、土地利用、人口・資産の分布、社会インフラの脆弱性が重なり合う複合的なリスクとして理解する必要があります。
WMOは、観測体制の充実、早期警戒システムの強化、影響に基づく予報、関係機関の連携、早期行動の重要性を強調しています。特に、警報が迅速に発出され、住民に信頼される形で届き、脆弱な立場にある人々にも確実に伝達されることが、被害の軽減に不可欠であるとしています。
近年の水関連災害は、気候変動の影響が将来だけの課題ではなく、すでに各地域の暮らし、インフラ、農業、水資源を通じて現れていることを示しています。WMO報告書と最近の災害事例を踏まえると、水に関するリスクを気候変動、災害リスク削減、農業・食料安全保障を横断する課題として捉える必要があると考えます。
9月1日以降は発信頻度をやや抑えつつも、Pick Upにおいて、引き続き時事的な科学情報をお届してまいります。
参考文献
WMO (2026) State of the Climate in Asia 2025. WMO-No. 1397. https://doi.org/10.59327/WMO/S/CRI/SOC/3/ASIA
WMO (2022) State of Global Water Resources 2021. WMO-No. 1308. https://library.wmo.int/idurl/4/58262
(文責:戦略統括室 飯山みゆき)