Pick Up
1403. 気候関連災害の農業・食料安全保障への影響
1403. 気候関連災害の農業・食料安全保障への影響
2年に1度公表される国連食糧農業機関(FAO)による報告書(The Impact of Disasters on Agriculture and Food Security 2025)は、気候関連の災害が水資源の利用可能量、土壌の健全性、そして農業生産性の大きな損失をもたらしていると警告し、レジリエンスの基盤として、統合的な水資源管理、および、リスク予測・軽減・管理に役立つデジタルソリューションの拡充、の必要性を強調しています。
災害による農業損失は、1991年から2023年の33年間で推定3兆2,600億米ドルに上り、年間平均990億米ドルに達しています。穀物の損失が最も大きく、46億トンに達しています。次いで果物と野菜(28億トン)、肉と乳製品の損失は9億トンとなっています。地域別では、アフリカは絶対的な損失は低いものの、農業国内総生産(GDP)の7.4%と、相対的な負担が最も大きいと推定されています。低中所得国は、農業GDPの5%と、相対的な損失が最も大きく、低所得国(3%)と高所得国(4%)の両方を上回っています。これは、高いリスクと脆弱性が、回復力のあるインフラの不足と組み合わさるという、重大なギャップを浮き彫りにしています。
災害による生産損失は、世界全体で1人1日あたり320kcalの供給量の減少に相当し、鉄分の損失は男性の必要量の60%に相当し、必須ビタミンとミネラルの深刻な不足は、特に脆弱な集団に影響を及ぼす可能性があります。
海洋熱波だけでも、1985~2022年に66億米ドルの漁業損失を引き起こしたと推定されており、世界の漁業の15%が影響を受け、生産損失は560万トンを超えています。
農業への災害の影響は、直接的な生産損失をはるかに超え、インフラの損傷、市場の混乱、金融システムの破綻、そして生態系サービスの劣化などを含みます。
デジタル技術とツールは、農業におけるリスクモニタリングに革命をもたらしています。データプラットフォームはインフラのギャップを埋め、保険や社会保障といったリスク移転メカニズムをタイムリーかつ大規模に導入することを可能にします。デジタルソリューションは、事後対応型から事前対応型のリスク軽減・予防型への移行を可能にします。リアルタイムで実用的な情報へのアクセスが向上することで、政策立案者と農家がリスク情報に基づいた意思決定を行う能力が強化されます。
デジタルソリューションを拡大・持続させ、地域の優先事項との整合性を確保し、農業食料システム全体にわたる長期的なレジリエンス構築のための条件を整備するには、一貫性のある政策枠組みが不可欠です。デジタルソリューションは、その対象となるコミュニティ(例えば、小規模農家)と共同で設計された場合に最も効果的です。デジタルソリューションの成功には、状況に応じた適応型アプローチと強力なマルチステークホルダーパートナーシップが不可欠です。地域の状況に合わせてツールを調整し、政府、研究機関、民間セクター、市民社会、農業コミュニティ間の連携を促進することで、拡張性、相互運用性、そして持続可能な影響を確保します。
(参考文献)
FAO. 2025. The Impact of Disasters on Agriculture and Food Security 2025 – Digital solutions for reducing risks and impacts. Rome. https://doi.org/10.4060/cd7185en
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)