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798. ウクライナ情勢の食料安全保障への影響

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798. ウクライナ情勢の食料安全保障への影響

6月6日、ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムが決壊し、大きな被害をもたらしています。

6月13日、イギリスのメディアによると、国連の高官が、「世界の穀倉地帯」における環境的破壊が食料危機の不安を高めることへの懸念を語ったと伝えられています。同報道は、また、ウクライナ政府関係者の話として、ダイズ、メイズ、ヒマワリ、小麦といった主要作物やジャガイモ・ニンジン・ビーツ・トマト・キュウリなどの野菜が、洪水による環境破壊の影響を受けるとしました。

ウクライナは主要な食料輸出国であり、今回のダムの破壊の影響は、輸出用作物の減少という形で、世界の食料安全保障に大きな影響を与えかねません。ウクライナからの食料輸出に依存する脆弱な国々、とりわけ北アフリカやサブサハラアフリカ地域の国々が大きな打撃を受けることが予想されています。農作物の作付および収穫が洪水の直接的な影響を受けるだけでなく、貯水池からの灌漑に依存していた農地も影響を受けることが予想されます。さらに、軍事作戦が収束したとしても、ウクライナにおいて作物生産を再開するには、地雷撤去や土壌汚染状態の分析といった作業が必要となり、生産を戦前の水準に戻すには時間を要することが見込まれ、戦争の世界食料安全保障への影響は長引く可能性もあります。

 

一方、ウクライナ産作物の輸出を保障することで世界食料危機の回避に貢献してきた黒海穀物イニシアチブですが、6月12日、国連事務総長は、ロシアが合意から脱する可能性について懸念を表明し、国連が仲介に尽くしていることが伝えられています。ロシアによる世界市場への穀物・肥料輸出は西側諸国による制裁対象とされている訳ではありませんが、ロシア政府は、支払い・ロジスティクス・輸送保険などで不利な条件を課されていることを批判しています。5月18日に60日の期限で延長された黒海穀物イニシアチブですが、ロシアは、とりわけ肥料原料のアンモニア輸送再開を盾に、延長期限前の7月17日に脱退をちらつかせているとのことです。

 

ウクライナ情勢は、世界食料安全保障の不確実性を増大させていると言えます。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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