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546. ウクライナにおける戦争の食料・燃料安全保障への影響

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546. ウクライナにおける戦争の食料・エネルギー安全保障への影響

ロシアのウクライナ侵攻は国際政治と市場を震撼させています。収束のタイミングは不確実なものの、この戦争は国際社会にとり長期的で構造的な影響を及ぼすことは必須です。イギリスのシンクタンク、チャタム・ハウス(Chatham House)は、ウクライナ戦争が供給寸断リスクを連鎖的にもたらすことで引き起こす食料・燃料安全保障への影響について、報告書をまとめました。要約を紹介します。 

ロシア・ウクライナとも、国際的な燃料・食料・肥料市場において重要なプレーヤーです。ロシアは、原油に関しては生産・輸出とも第三位、天然ガス生産で二位・輸出で最大、そして石炭輸出では第三位と、世界において重要な位置を占めます。ロシアはまた、小麦の最大の輸出国であり、第二位のヒマワリ油輸出国です。ウクライナは同様に世界食料市場にとって重要であり、ヒマワリ油輸出は世界第一位、メイズ輸出は同第四位、小麦輸出は同第五位です。ロシアはまた、肥料市場で優位を占め、全体では世界最大の輸出国であり、窒素肥料では世界第二位、カリウム肥料では第三位です。

侵攻前に、燃料・食料・肥料市場では、すでに需要が供給を上回る形で価格をつり上げていました。COVID-19パンデミック以降、世界的に食料・燃料価格高騰による生活関連の費用が上昇していましたが、ウクライナ戦争が状況悪化に拍車をかけている形です。

こうした食料・燃料価格上昇は社会安定にとっての脅威であり、とりわけポスト・パンデミック後のインフレと財政制約に苦しむ全ての経済における低所得・脆弱な社会層に影響を及ぼします。これらの危機は、既に顕在化している社会経済・政治的ストレスと相まって、世界の様々な地域で社会不安や紛争等の連鎖的なリスクを誘引しかねません。気候変動を原因とする供給ショックによる価格上昇と重なれば、さらにリスクは高まります。

各国の政治家にとって、最も差し迫った危機の緩和策をとることが優先されるでしょう。しかし、とりわけ気候変動緩和などの長期的な目標を軽視することは、既存の経済・社会システムの脆弱性を悪化させかねない悪手と言えます。

ロシア・ウクライナ危機は国際社会にとって新たな課題を突きつけていますが、それが増幅させている連鎖的なリスク - サプライチェーン寸断・市場のボラティリティ・資源安全保障の危機・人々の移動と地政学的変化 - は、既に気候変動下にある世界における現実社会の一部であるともいえます。

各国政府は、COVID-19パンデミックにはじまり、今やウクライナにおけるロシアの戦争という、過去2年間におこった世界的スケールでのショックに対する国際経済・社会の強靭性を構築するための投資が求められています。各国政府は現在のウクライナ危機への対応にとどまらず、市場寸断・地政学的課題を緩和するための措置(「後悔しない」措置)をとるべきです。


(参考文献)
Tim G. Benton et al. The Ukraine war and threats to food and energy security: Cascading risks from rising prices and supply disruptions. Chatham House.
https://www.chathamhouse.org/sites/default/files/2022-04/2022-04-12-ukr…

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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