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262. 災害の農業・食料安全保障へのインパクト

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2019-2020年、オーストラリアは史上最悪の森林破壊を経験し、多くの人命とインフラ、動植物が失われました。 2021年3月、今度は50~100年に一度とも言われる大洪水が襲来し、昨年と今年に正反対の異常気象に見舞われた同国が受けた社会的・経済的ダメージは計り知れません。
 

2021年3月、国連食糧農業機関(FAO)は、災害の農業・食料安全保障にもたらすインパクトをとりまとめた報告書を公表、自然災害の頻度と強度が増している状況がニューノーマル化している事態に警鐘を鳴らしました。
 

災害が農業に及ぼす最大かつ直接の影響は作物・畜産生産量の減少であり、農民への経済ロスにとどまらず、バリューチェーンを通じ、その影響はセクター・経済全体に及びます。2008年から2018年までに、災害の結果、作物・家畜生産が受けた損失は、サブサハラ・北アフリカで300億ドル、ラテンアメリカ・カリブ地域で290憶ドル、カリブ島嶼途上国で87憶、アジアで490憶ドル、と推計されました。

災害原因別にみた同期間における作物・畜産生産の損失は、干ばつ(370憶ドル、34%)、洪水(210億ドル、19%)、嵐(190憶ドル、18%)、病害虫(98憶ドル、9%)、森林火災(10憶ドル、1%)、でした。

開発途上国を中心とした世界の人口増加と慢性的な栄養不足、新興国の経済成長、異常気象の頻発等により、中長期的には世界の食料需給がひっ迫することが懸念されています。そのため、食料・栄養不足が集中している開発途上地域における農作物の安定かつ持続的な生産が喫緊の課題になっています。しかしながら、熱帯等の開発途上地域は、低肥沃土や乾燥等の不良な環境条件下の農地が多く、気候変動による悪影響に対しても脆弱であるため、農業生産の潜在能力が十分に発揮されず生産性が低いことが問題になっています。こうした問題を解決するために、国際農研では干ばつ等の環境ストレスに適応可能なイネやダイズの育種素材や遺伝子素材を開発しています。 

参考文献
FAO. 2021. The impact of disasters and crises on agriculture and food security: 2021. Rome.  http://www.fao.org/documents/card/en/c/cb3673en

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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