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246.森林火災と気候変動の関連

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2021年2月、栃木と群馬における森林火災では数日間延焼が続き、近隣住民にも避難勧告が出されました。森林火災といえば、近年オーストラリア東部や米国カリフォルニアなどで頻発化し大きな被害をもたらしていますが、気候変動との関連が疑われています。

npj Urban Sustainability誌にて、オーストラリアの山火事が将来の都市居住空間に与える影響についての論考が発表されました。 
 
2019・2020年にオーストラリアを襲った森林火災は、史上最も暑く乾燥した気候条件で起き、その規模・強度・破壊力において史上最大のものであり、今後も同様の状況が起きうることを示唆しました。ここ数十年の間、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の複数の影響力ある報告書は、2020年代までにオーストラリアにおける森林火災の頻発化の危機を予言していたにもかかわらず、十分な対策がとられてきませんでした。2019-2020年の火災では、400人以上の人命が犠牲となり(33人は火事の直接の被害、417人は煙の吸引による被害)、3000以上の住居と7000以上の施設が破壊され、1260万ヘクタールが消失し、10万頭の家畜と推計10億のオーストラリア固有の生物の命が失われ、オーストラリア人の80%以上が直接または間接に影響を受けたとされます。火事は都市部を煙で包み込み、2020年1月、首都キャンベラは世界で最悪の大気汚染を記録しました。

論文は、近年のオーストラリアの火事をフランシス・フォード・コッポラによる戦争映画をもじって「地獄の黙示録(Apocalypse now)」と評し、パンデミック・気候変動による飢饉・戦争・文明の死を象徴する「ヨハネの黙示録の四騎士」に言及しました。黙示録は、人類の文明が生態学的な境界を超えることで破綻を迎えるとし、現在のプラネタリー・バウンダリー議論に通じるものがありそうです。


昨年のJIRCAS創立50周年国際シンポジウムにおいても、今日の国際社会が直面する、気候危機、食料安全保障危機、パンデミック、経済危機という複合的な問題に言及しました。気候変動の逆転、パンデミック拡大の阻止、食料安全保障の維持は、一国では解決できず、国際協力を通じ、環境保全・資源利用効率性と収量向上に貢献するクライメート・スマートかつ持続的な農業集約技術の開発と普及を通じ、体系的に取り組まれる必要があります。
 

参考文献

Norman, B., Newman, P. & Steffen, W. Apocalypse now: Australian bushfires and the future of urban settlements. npj Urban Sustain 1, 2 (2021). https://doi.org/10.1038/s42949-020-00013-7

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)
 

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