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853. 森林火災・山火事のトレンド

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853. 森林火災・山火事のトレンド

この夏、世界各地で森林火災・山火事のニュースが報告されました。

世界資源研究所(WRI)は、近年、森林火災の被害が拡大しており、20年前に比べて2倍相当の面積が焼失しているとのデータ分析結果を発表しました。分析によると、2001年比で今日森林火災により失われる森林はベルギーの国土に匹敵する300万ヘクタール増加し、過去20年間の全森林喪失面積の4分の1以上が火災由来です。2021年はその年の全森林喪失面積の3分の1に相当する930万ヘクタールの森林が火災により焼失しました。2022年は660万ヘクタールと2021年以前の10年間の森林火災水準まで戻しましたが、2023年は既にカナダで史上最悪の森林火災が観測され、さらにハワイでも惨劇が報告されています。

気候変動は森林火災の状況を悪化させている一因と考えられています。極端な熱波のもとで、森林火災からの温室効果ガス排出が気候変動を悪化させるという「 火災・気候のフィードバックループ“fire-climate feedback loop”」が発現しています。このフィードバックループに加え、森林地域における人間活動の拡大も、今日の火災の増加の背景にあると考えられます。

過去20年間の森林火災の殆ど、およそ70%が寒帯・亜寒帯地域(boreal region)で起こっています。北半球高緯度地域での温暖化のスピードが他の地域よりも速いことが原因として挙げられています。例えば、2021年にロシアで540万ヘクタールの森林を焼失したような長期間継続した熱波は、人為的な気候変動なしでは起こりえなかったとされています。2023年1月から7月にかけ、カナダではポルトガルの国土に匹敵する950万ヘクタールが喪失しました。北方の針葉樹林は陸上生態系カーボンの30-40%を占めるとされ、カーボンの殆どは永久凍土を含む地下に溜まっています。永久凍土は歴史的にごく稀にしか起こらない火事から保護されてきましたが、気候変動による森林火災の増加は、最終的に針葉樹林・永久凍土をカーボン排出源に変えてしまう懸念があります。

北方林とは対照的に、熱帯林では山火事は生態系サイクルの一環ではありませんでした。しかし過去20年間にわたり、熱帯林における火災関連の森林喪失は毎年36,000ヘクタールの規模で増加しており、2001年から2022年の森林喪失増加分の15%近くに相当します。一方、熱帯地域における山火事由来の森林喪失は全森林喪失面積の10%以下ですが、商品作物栽培のための森林伐採や焼畑農業が森林火災への脆弱性を悪化させています。農地拡大のために熱帯林が焼かれているアマゾンでは、意図的な火付けが森林火災に繋がるケースも多いようです。気候変動や土地利用変化に加え、エルニーニョ現象が熱帯地域における森林火災のリスクを高める可能性があります。2015-2016年のエルニーニョ現象は、東南アジアやラテンアメリカでの森林火災を10倍ほど増加させたとも推計されています。2023年6月に発生した現在のエルニーニョ現象は2024年まで継続することが予測されており、熱帯地域での火災リスクも高まっています。

熱波や人口動態の変化は、温帯・亜熱帯地域における森林火災リスクも増加させています。歴史的に、温帯・亜熱帯地域での火災規模は針葉樹林・熱帯林と比べて小さく、2001年~2022年期間の全森林火災喪失面積の16%に過ぎませんでした。しかしこれらの地域でも近年気候変動や土地利用変化が森林火災の増加原因となっています。ヨーロッパでは耕作放棄地において雑草等が生い茂ることが火災リスクの上昇につながっており、アメリカでは手つかずの植生に住宅地などが浸食して原野・都市の接点(wildlife-urban interface)が拡大していることが火災リスクを上昇させているようです。

WRIは、森林火災の増加の原因は複合的で、地理的にも異なるため、万能策はないとしました。一方で、気候変動が近年の森林火災の頻度と強度の高まりの背景にあることは疑いがないようです。したがって、温室効果ガス排出を大幅に削減し、火災・気候のフィードバックループを断ち切ること以外に、森林火災を低い水準に抑制する方法はありません。気候変動以外にも、森林および周辺における人間活動は森林火災により晒されるようになり、森林火災を引き起こしやすい条件を作り出し、熱帯林における火災関連での森林喪失に拍車をかけています。森林破壊や森林劣化を食い止め、森林の強靭性を向上することが喫緊の課題となります。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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