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881. 災害の農業・食料安全保障へのインパクト

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881. 災害の農業・食料安全保障へのインパクト

農業は自然資源と気候条件に大きく依存しており、従って災害リスクに最も脆弱な部門の一つです。近年の災害はこれまでの食料安全保障状態の改善を台無しにし、農業食料システムの持続性を損ないかねません。システムが直面するリスクを見越して対策をとり、災害リスク管理をとりいれるための情報が必要となります。

10月13日、国連食糧農業機関(FAO)は、農業への災害インパクトについてとりまとめた報告書(The impact of disasters on agriculture and food security)を公表、世界全体で過去30年間に3.8兆ドルの作物・家畜生産が喪失されたとの推計値を発表しました。この数字は、年平均で1230億ドル、あるいは世界の農業GDPの5%にも相当し、貧しい国ほど損失は大きく、低所得国では農業GDP15%、小島嶼開発途上国では農業GDP7%相当に及ぶとされます。

本報告書が作物・家畜を対象とした世界的推計の初めての試みとしつつも、水産業や林業部門における災害損失についてのシステマティックデータは含まれていません。報告書は、農業のすべてのサブセクターを対象としたデータ・情報を改善することで、災害に対する効果的な対策が可能となると強調しました。

報告書は、近年農業生産への損失が増加傾向にあるとし、穀物は年平均で6900万トン(2021年フランス穀物生産に相当)、果菜類・砂糖類でそれぞれ毎年4000万トンが喪失され、この果菜類の喪失は2021年の日本とベトナムの生産量を合わせた規模に匹敵します。

地域別にみると、災害インパクトによる経済損失のシェアが最も大きいのはアジアで、アフリカ、ヨーロッパ、北米も相当の被害を受けています。一方、アジアでの被害は農業付加価値の4%であるのに対し、アフリカの被害は8%近くにのぼり、被害規模の地域差も非常に大きくなっています。

1970年代の災害は年間100件程度であったのが、過去20年間は年間で400件程度に増えています。災害の頻度・強度・複雑さだけでなく、気候変動を原因とする災害が社会・環境脆弱性を増幅することによって、さらに被害を拡大させる傾向にあります。

いったん災害がおこると、その被害は複数のシステムやセクターをまたぎ、気候変動、貧困、不平等、人口成長、パンデミックが引き起こす保健の緊急事態、非持続的な土地利用管理、武力衝突、環境劣化、といった連鎖的なインパクトをもたらす可能性もあります。

天水条件にある小規模農家ほど脆弱で、災害の被害を直に受けます。農業におけるリスクを予防し削減することで強靭性を構築してくための積極的な介入が求められます。報告書は、1ドル予防的な活動に投資することで、農家は7ドルの便益(農業損失の回避を含む)を得ることが期待されます。

報告書は、作物・家畜・水産養殖業・林業を含む農業の全セクターにおける災害インパクトについてのデータ情報改善、マルチセクターなリスク削減アプローチの政策登用、農業における災害リスク削減や農業生産・生計向上に資する強靭性への投資拡大、の3つの優先的なアクションを提案しました。

 

(参考文献)

FAO. 2023. The Impact of Disasters on Agriculture and Food Security 2023 – Avoiding and reducing losses through investment in resilience. Rome. https://doi.org/10.4060/cc7900en

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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