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1349. プラネタリー・ヘルス・チェック2025

1349. プラネタリー・ヘルス・チェック2025
私たちは人新世、すなわち人間の活動が地球システムを支配する時代に入っています。人間の活動は地球の安全な活動領域(SOS)の限界を超えることで、地球の自然回復力を弱まらせ、地球温暖化を加速し、生態系を劣化させ、主要なシステムにおいて転換点の兆候が表れる原因を生み出しています。地球の回復力と安定性を守るためには、地球をプラネタリーバウンダリー内に取り戻さなければなりません。これらの境界は、地球の健全性を確保するための科学的に定義されたガードレールです。限界を超えれば、私たち自身の生命維持システムに不可逆的なダメージを与える危険があります。
プラネタリー・ヘルス・チェック2025(Planetary Health Check 2025)報告書は、今日、9つの限界のうち7つが既に境界を越えていることを示しました。それら7つのプラネタリーバウンダリーは、気候変動、生物圏の健全性、陸域システムの変化、淡水利用、生物地球化学的フロー、新規物質、そして海洋酸性化(2025年に新設)で、すべて悪化傾向を示しています。安全域に残っているのは、オゾン層の破壊とエアロゾル負荷のみです。
気候変動
地球の気候は危険水域にあります。温室効果ガスの濃度は記録的な水準に達し、地球温暖化は加速しているように見え、状況は悪化し続けています。大気中のCO₂濃度は2025年には423ppmに達し、完新世基準値の350ppmをはるかに上回ります。
主な要因:化石燃料の燃焼、CO₂以外の温室効果ガス排出につながるプロセス、陸域システムの変化、生物圏の健全性の変化、大気エアロゾル負荷の増加。
生物圏の健全性の変化
自然のセーフティネットは崩壊しつつあり、絶滅と自然生産性の損失は安全水準をはるかに上回っており、改善の兆しは見られません。絶滅率は依然として100 E/MSY(100万種あたり・1年あたりの絶滅種数(extinctions per million species-year “ E/MSY”))を超えており、地球限界の10 E/MSYをはるかに超えています。
主な要因:バイオマスの採取(農業、林業、漁業)、外来種の導入、土地システムの変化、気候変動、淡水資源の変化、生物地球化学的フローの変化、新規生物の導入、海洋酸性化。
陸域システムの変化
地球上の森林は縮小しており、そのほとんどはすでに安全水準を下回っています。世界の森林被覆率は約59%に低下しており、これは安全最低水準である75%を大きく下回っています。全体的な傾向は依然として悪化していますが、森林減少のペースは鈍化しています。
主な要因:農地と家畜の放牧地の拡大、木材伐採、居住地とインフラの拡大、気候変動、淡水化、生物圏の健全性。
淡水の変化
河川や土壌水分への人間の影響は拡大しており、水システムの安定性がさらに損なわれ、干ばつや洪水のリスクが高まっています。世界の陸地面積の5分の1以上が現在、河川流量(22.6%)と土壌水分(22.0%)の著しい乾燥または湿潤偏差に直面しており、これは産業革命以前の基準値の約2倍であり、安全水準(12.9%と12.4%)をはるかに超えています。
主な要因:灌漑と農業、工業用水の使用、家庭用水の使用、気候変動、大気エアロゾル負荷の増加、土地システムの変化。
生物地球化学的フローの変化
肥料の過剰使用により、土地と水に窒素とリンが過剰に蓄積され、汚染とデッドゾーンが発生しており、改善の兆しは見られません。リン施用量は約18.2 Tg P/年(プラネタリーバウンダリーの3倍)であり、窒素固定量は約165 Tg N/年(プラネタリーバウンダリーの2倍超え)で高リスクゾーンにあり、悪化傾向にあります。
主な要因:採掘された鉱物リンの肥料としての畑への施用、工業的に固定された窒素の肥料としての畑への施用、窒素固定作物の栽培。
海洋酸性化
海は酸性化が進み、海洋生物が脅かされています。地球の平均表面アラゴナイト飽和度(Ω)は現在2.84で、改訂されたプラネタリーバウンダリーの2.86(新たに更新された産業革命以前のΩの80%に相当)をわずかに下回っています。これは、初めて、海洋酸性化のプラネタリーバウンダリーが超過したと評価したことを意味します。
主な要因:化石燃料の燃焼。
大気エアロゾル負荷の増加
半球間の大気汚染の差は縮小しています。これは、地球全体の大気質が徐々に改善していることを示唆する前向きな兆候です。
主な要因:化石燃料の燃焼、バイオマスの燃焼。
成層圏オゾン層の破壊
オゾン層は安定しており、ゆっくりと回復の兆しを見せており、有害な紫外線からの保護を維持しています。モントリオール議定書による回復は継続していますが、ただしオゾンは歴史的なレベルを下回っており、南極のオゾンホールも依然として存在します。
主な要因:合成クロロフルオロカーボン(CFC)や亜酸化窒素(N2O)などのオゾン層破壊物質の生産・排出。
新規物質の導入
人工化学物質、プラスチック、その他の新規物質は、十分な試験や管理が行われないまま増加し続けており、環境リスクは増大し続けています。
主な要因:産業、農業、消費財向けの人工化学物質の工業生産。
プラネタリーバウンダリー概念の提唱者であるヨハン・ロックストローム氏は、「私たちは地球の健康状態が悪化しているのを目撃しています。しかし、これは避けられない結果ではありません。エアロゾル汚染の減少とオゾン層の回復は、地球規模の発展の方向転換が可能であることを示しています。たとえ診断結果が悲惨なものであっても、改善の窓はまだ開かれています。失敗は避けられないものではなく、避けなければならない、そして避けることができる選択なのです」と、述べています。
(参考文献)
Sakschewski, B., … Rockström, J. (2025): Planetary Health Check 2025: A Scientific Assessment of the State of the Planet, Potsdam : Potsdam Institute for Climate Impact Research (PIK), 144 p.
https://doi.org/10.48485/pik.2025.017, Cite as: https://publications.pik-potsdam.de/pubman/item/item_32589
https://publications.pik-potsdam.de/rest/items/item_32589_1/component/f…
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)