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1242. 科学と政策の橋渡し

1242. 科学と政策の橋渡し
気候変動、紛争、生物多様性の喪失、そして飢餓といった課題に迅速に対応するための政策策定において、食料システム科学の役割がこれまで以上に必要とされています。一方、多くの政策策定者にとって、科学を適用するにあたり、政策に必要な適切なデータや情報、そして明確さと実用性の欠如がしばし問題になるようです。
世界最大のグローバル農業イノベーションネットワークであるCGIARは、科学を政策に結びつける取り組みの一環として、4月上旬、ケニアのナイロビで開催されたCGIARサイエンスウィークにおいて、旗艦報告書(Insight to Impact: A Decision-Maker’s Guide to Navigating Food System Science 「インパクトへの洞察:意思決定者のための食料システム科学の活用ガイド」)を発表しました。この報告書は、数十年にわたる研究から厳選されたデータとイノベーションをまとめ、特に低・中所得国において、強靭で持続可能な食料システムの構築に取り組む意思決定者や投資家に対し、科学を実践的ですぐに活用できるガイダンスを提示しています。
気候変動への農家の適応支援から、栄養価の高い食料や持続可能な生活へのアクセス拡大まで、本報告書は政策立案者から頻繁に提起される疑問に答え、また、科学的根拠に基づき、実際の状況で検証された実践的な解決策の事例を提示しています。
例えば、改良された作物と家畜の品種が、栄養・収入・気候変動へのレジリエンスという3つのメリットをもたらした例として、次のようなケースが紹介されました。パキスタンのケースでは、亜鉛を豊富に含む小麦が供給され、亜鉛摂取量を21%増加させ、女性と子供に蔓延する亜鉛欠乏症の対策に貢献しました。エチオピアでは、傾斜・土壌の健全性・気候に合わせたオーダーメイドの肥料アドバイスを提供することで、農家が作物の収量を最大29%、収入を1ヘクタールあたり最大270米ドルの増加を実現し、この取り組みはさらに規模を拡大しています。ベトナムにおけるスマート稲作水管理では、3万3000人以上の農家に対し、収量を損なうことなくメタン排出量と水使用量を削減する気候変動対策技術の研修を行いました。この手法は、現在、ベトナムの気候政策に組み込まれています。
世界中で貧困、不平等、失業という三重の難問が山積する中、あらゆるレベルの意思決定に情報を提供するために、最先端の科学、技術、そしてイノベーションを活用する能力が極めて重要です。報告書を担当した研究者は、科学者と政策策定者が解決策を共創するという理念を共有することの重要性を述べ、世界各地域ごとの課題への取り組みにおいて、CGIARが科学と意思決定の橋渡しにコミットしていくことを強調しました。
(参考文献)
CGIAR System Organization. 2025. Insight to Impact: A Decision-Maker’s Guide to Navigating Food
System Science. Montpellier, France: CGIAR System Organization. https://www.cgiar.org/flagshipreport2025
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)