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1228. 気候と炭素循環のフィードバックの相互作用により、温暖化が大幅に促進される可能性

1228. 気候と炭素循環のフィードバックの相互作用により、温暖化が大幅に促進される可能性
世界経済の脱炭素化に向けた取り組みにより、世界の人為的排出量は、最も極端な排出シナリオからは乖離しつつあります。一方、Environmental Research Letters誌で公表された論文は、今後1,000年間の長期予測を行い、永久凍土の融解などの気候とメタンを含む炭素循環のフィードバックループを考慮すると、2℃の閾値を大幅に上回る気温上昇につながる可能性を指摘しました。
人為的気候変動予測における不確実性は、主に将来の排出シナリオと気候感度に起因します。後者はいくつかの気候フィードバックの強さによって決まりますが、大きな不確実があります。このため、気候科学にとり、大気中CO2 の倍増による定常状態の全球平均地表気温の変化として定義される地球の平衡気候感度(equilibrium climate sensitivities: ESC)を制限することが極めて重要であると考えられています。高排出経路が現在の排出傾向と整合性を失っていることから、温暖な気候条件のもと現実的なシナリオにおける気候感度、炭素循環のフィードバック、および転換点に関連する不確実性を調査することが必要です。
さまざまなシナリオにわたって、地球の平衡気候感度(ESC)が高い場合、炭素循環フィードバック全体が追加的な気温上昇のほぼ半分の原因であることが判明しました。つまり、他素循環フィードバックは気候感度の変化と同じくらい重要です。炭素循環フィードバックによる追加の気温変化は、さらに CO2 と CH4 の寄与に分解でき、すべての シナリオにおいて、気温に対する CO2 の影響は CH4 の影響よりも大きくなります。
高緯度地域では一貫して気温の変化が大きいとされ、高緯度地域の温暖化の進行は、主に海氷と雪の減少(表面アルベドフィードバック)と温暖化の地表への閉じ込め(正の減率フィードバック)によって引き起こされる極域増幅によるものです。2300年までに、グリーンランド海やバレンツ・カラ海など、海氷縁辺が後退している北極海地域で温暖化は進行し、北極の気温は2300年までに平均約4 ∘C上昇し、シナリオ・地域によっては11℃~最大約15 ℃上昇すると見込まれています。
一方、陸域炭素循環の気候変動への反応は、主に 2 つの相反するフィードバック メカニズムによって制御されます。1 つ目は CO2 の施肥効果で、陸域炭素吸収を増加させます。これは、CO2 濃度が高いと、光合成によって植物がより多くの炭素を消費するように刺激されるためです (陸域 CO2-炭素循環の負のフィードバック)。 2 つ目は、温暖化によって促進される土壌呼吸で、陸地の炭素吸収が減少し、微生物活動の活発化により土壌から CO2 が放出されるときに発生します (陸地の気候 - 炭素循環の正のフィードバック)。全体として (海洋を含む) の炭素循環の正のフィードバックは、主に土壌呼吸の温度依存性を介した陸地の炭素反応によって推進されます。異なる ECS は土壌に貯蔵される炭素量に大きく影響し、ECS が大きいほど土壌炭素は少なくなります。一方、植生炭素の変化はわずかで、純一次生産の変化によって推進されます。シミュレーションでは、ECS が増加するにつれ、気候 - 炭素循環の正のフィードバックが CO2 - 炭素循環の負のフィードバックよりも優勢になるとされます。
歴史的に(1850~2015年)、土地利用変化により植生炭素は減少し、土壌炭素は増加してきました。21世紀には、純一次生産性の増加により、土地が炭素の純吸収源となるとされています。21世紀の植生炭素の増加はシナリオに依存していますが、ECSはこれらの変化の規模を決定する上で大きな役割を果たしています。世界的に、土壌炭素はさまざまなシナリオにわたって当初増加し、高いECS値の下ではより早くピークに達した後、急激な減少が続く結果、土壌炭素貯蔵庫は気候感度に応じて純排出源(高ECS)または純吸収源(低ECS)のいずれかになります。陸上炭素循環への正のフィードバックの大部分は、永久凍土に蓄えられた炭素の変化に起因すると考えられます。高ECS シミュレーションでは、永久凍土面積の 50% 以上 (61%~94%) が失われ、保持された炭素の大部分は大気中に放出されます。低ECS シミュレーションでは永久凍土面積は減少しますが、土壌における炭素損失は、純一次生産の増加と、その結果として土壌への炭素投入量が増えることにより、ある程度緩和されます。言い換えると、陸地は、ESCが高いほど(低いほど)、今後千年間にわたって CO2 の純排出源(吸収源)になる可能性があります。
気候と CH4 の正のフィードバックは、湿地から CH4 として呼吸される総土壌炭素の割合が温度とともに増加するため、シミュレートされた自然 CH4 排出の温度依存性から生じます。自然 CH4 排出は明らかに熱帯地域が中心で、亜熱帯は二次的な役割を果たします。
海洋はすべてのシミュレーションで炭素吸収源として機能し、様々なECS水準でも海洋炭素応答は非常に似ています。これは、気候の変化(正の海洋気候-炭素循環フィードバック)と大気中のCO2濃度の変化(負の海洋CO2-炭素循環フィードバック)が大気と海の炭素交換に与える影響がほぼ相殺し合うという事実によって説明されます。
以上を踏まえると、温暖な気候条件のもとでも、現実的なシナリオにおける気候感度、炭素循環のフィードバック、および転換点、の連関について、研究を強化することが、将来の気候変動の不確実性緩和に貢献します。
(参考文献)
Christine Kaufhold et al, Interplay between climate and carbon cycle feedbacks could substantially enhance future warming, Environmental Research Letters (2025). https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/adb6be
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)