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1024. 住みやすい地球のためのレシピ

1024. 住みやすい地球のためのレシピ
現在、農業食料システムは、人為的な温室効果ガス排出の世界シェアの3分の1を占めると推計されています。世界銀行が公表した報告書「住みやすい地球のためのレシピ:農業食料システムにおけるネットゼロ達成に向けて:Recipe for a Livable Planet: Achieving Net Zero Emissions in the Agrifood System」は、増加する世界人口を養いつつも、土壌・生態系・人の健康の向上を目指す実現可能なアクションを通じ、温室効果ガス排出を大幅に減らすことで、食料安全保障・気候変動へのレジリエンス・脆弱な人々の保護が可能になるとしています。
報告書は、農業食料システムは、低コストの気候変動アクションの潜在性を秘めており、他のセクターと比べても、排出削減と炭素貯留を通じて気候変動対策において極めて大きいインパクトをもたらしうると指摘しています。一方、各国による気候目標達成の在り方が異なることを認識し、報告書は解決のための選択肢のメニューを提案します。
高所得国は、低・中所得国によるカーボンクレジットにつながる森林保全プログラムへの技術支援を含む低排出農業技術への支援を強化するとともに、自身も高排出な食品分野への補助金を段階的に廃止することで、低排出な食の選択肢の価格競争力向上が可能です。
世界の農業食料分野の温室効果ガス排出の4分の3を占める中所得国は、畜産や水田由来の温室効果ガス削減、健全な土壌への投資、食料ロスや廃棄物の削減、より効率的な土地利用、といったグリーンな慣行を通じた排出削減において、中心的な役割を果たすことが期待されています。
対照的に、低所得国は、過去、先進国が犯してきた過ちを回避し、グリーンで競争的な経済発展に向け、気候スマートな機会を最大限に活用すべきです。低所得国における農業食料システム由来の排出が食料生産目的のための森林破壊に起因することから、森林保全・回復が持続可能な経済発展に貢献します。
農業食料システム由来の排出削減には、肥料やエネルギー、作物・家畜生産、そしてパッケージングや流通と、農場から食卓のバリューチェーン全体にかかる包括的なアプローチを通じ、全ての国がアクションをとる必要があります。
報告書は、農業食料部門での排出削減に投資することによる便益がコストよりも数段大きいと強調します。2030年までに農業食料部門の排出を半減し、2050年までにネットゼロを達成するには、毎年の投資額を2600億ドルに増加させる必要があります。報告書は、現在、この倍に相当するお金が農業補助金に費やされているとし、一部をグリーンな投資に振り分けると同時に、ネットゼロ達成のための追加投資を調達することが必要だと述べました。こうした投資は、最終的に、人の健康、食料安全保障、雇用・利益の改善、森林や土壌での炭素貯留、を含み、4兆ドルの便益をもたらすことが期待されます。
(参考文献)
“Sutton, William R.; Lotsch, Alexander; Prasann, Ashesh. 2024. Recipe for a Livable Planet: Achieving Net Zero Emissions in the Agrifood System. Agriculture and Food Series. Conference Edition. © Washington, DC: World Bank. http://hdl.handle.net/10986/41468 License: CC BY 3.0 IGO.”
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)