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940. 気候変動による生物多様性の危機

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940. 気候変動による生物多様性の危機

 

国際自然保護連合(IUCN)が発表する絶滅危惧種レッドリストは、地球規模における動物・植物・菌類の種の保全状況について報告しています。

レッドリストによると、6,000種以上の動物・菌類・植物が気候変動よって絶滅の危機に直面しています。 中でも、消滅のペースが最も速い種はサンゴであり、動物の中で平均的に最も絶滅の危機の高いのが両生類です。サンゴは、世界でも最も多様な生態系の一部ですが、海面温度の上昇により白化現象にさらされています。気候変動はまた、動物の繁殖活動や雑種形成に深刻な生理的変化をもたらします。

生物多様性は、それ自身の価値にとどまらず、エコシステムにおいて不可欠な役割を果たすことで人類に貢献しています。気候変動により生息圏の破壊がすすみ、生物多様性とエコシステムサービスが喪失することで、気候変動の悪化も加速するという負のフィードバックが状況を悪化させかねません。気候変動と生物多様性危機は表裏一体であり、生物多様性の保全は気候変動の解決とも密接に関連しています。

 

食料・飼料生産のための農業は、既存の農地の集約的な利用および農地拡大を目的とした手つかずの自然破壊の双方を通じ、生物多様性喪失の原因となっています。とくに収量向上を目指した集約的農業における農薬使用・過剰な耕起・モノカルチャーなどは、花粉媒介・窒素循環・炭素貯留・干ばつへの強靭性といったエコシステムサービスに負の影響を与えてきた側面もあります。したがって、国際的に、より持続的な農業慣行への移行が推進されています。

NJP biodiversity誌に最近公表されたシステマティックレビュー論文は、最小耕起や保全耕起、農薬・化学肥料削減・不使用、といった相対的に集約度が低い農業慣行が複数の種の保全に対する影響を分析した331の文献を精査しました。レビューの結果、万能な慣行はないが、相対的に集約度の低い農業慣行は、全体的に生物多様性保全に資する傾向がみられる一方、しばし陸上と土壌中の種の多様性に対して相反する影響をもたらすケースも見られました。生物群系にかかわらず、特定の農業慣行が種の保全に及ぼす影響は一定の傾向が見られましたが、施肥と耕起については、温帯・地中海地域以外からのサンプルサイズが小さいこともありますが、生物群系によって菌類・線形動物・細菌・節足動物への影響がポジティブあるいはネガティブと逆転するケースが観察されることもありました。このことは、既存の農業慣行への代替慣行は生物多様性を改善する傾向はありながらも、実際の効果は生物種や農業慣行のタイプに左右されることを示唆しています。論文は、将来の食料システムにおける生物多様性保全においては、各地の状況に合わせた農業慣行の選択が重要であると結論づけました。

 

(参考文献)
Cozim-Melges, F., Ripoll-Bosch, R., Veen, G.F.(. et al. Farming practices to enhance biodiversity across biomes: a systematic review. npj biodivers 3, 1 (2024). https://doi.org/10.1038/s44185-023-00034-2

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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