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934. 未来の世界人口を養うために

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934. 未来の世界人口を養うために

 

1月3日、Nature Communications誌に、未来の世界人口を養うために(Feeding the future global population)、という論説が発表されました。その内容を紹介します。

気候変動は世界食料生産を脅かし、食料生産からの環境インパクトを悪化させています。未来の世界食料安全保障のために、持続的で社会的な責任を伴う解決法が緊急に必要とされています。

食料生産は複数の持続可能な開発目標SDGsと密接に関係しますが、SDG2 「飢餓をゼロに」目標の達成は、しばし気候変動や生物多様性保全ゴールとの矛盾を伴います。また、消費のインパクトは地理的に離れた地域に波及し、世界の格差を拡大しかねません。したがって、食料生産の持続的な増加を実現するうえで、社会的な格差を解消し(貧困をなくそう、すべての人に健康と福祉を、人や国の不平等をなくそう、平和と公正をすべての人に、SDGs 1, 3, 10, 16)、環境や生物多様性の保全を実施しなければなりません(つくる責任・つかう責任、気候変動に具体的な対策を、陸の豊かさも守ろう、SDGs 12-15)。

国連によると世界人口が2030年には85億人、2050年には97億人に達すると予測されている中、世界食料安全保障の確保はたやすいことではありません。世界人口の伸び率は鈍化しつつあるものの、とくに食料問題を抱えるアフリカやアジアでの成長率は高止まりしています。一方で、高所得国では、生産される食料の大きな割合がロス・廃棄される中、栄養ある食にありつけない社会層との格差問題が顕在化しています。

歴史的にみて、食料増産の殆どは土地利用変化によって成し遂げられ、生物多様性の喪失と気候変動の原因にもなっています。しかし、科学イノベーションは生産性向上を可能にしてきました。20世紀半ばの緑の革命は、高収量品種によって食料安全保障の向上に大きな役割を果たしました。

それ以来、育種は食料生産の安定性にも貢献してきました。しかし、現在の気候条件に適している品種は、変わりゆく環境のもとで高収量を保障してはくれないでしょう。食料生産インフラと管理システムの強靭性を強化し、気候変動に配慮した栽培カレンダーの調整などの戦略を講じる上で、さらなる科学イノベーションが求められています。

食料消費の環境インパクトを踏まえ、食生活をより持続的にすることも求められています。例えば、EATランセット委員会は、地球の限界を超えることなく人類の健康を改善することが期待されるとして「プラネタリーヘルスダイエット」を提案しました。にもかかわらず、持続的な食生活への移行には課題もあります。陸域での畜産業は植物性タンパクや乳製品代替品に比べ(土地利用インパクトの大きさに比べ)カーボン排出量が多いものの、植物性食品のための穀物生産拡大に伴う水使用環境負荷やエコシステム喪失のインパクトも決して小さくありません。培養肉や昆虫食の製品は次第に消費者に受容されつつありますが、環境・健康インパクトについてのエビデンスは確立されていません。海洋・淡水システムにおける水産・養殖食品を指すブル―フードへの関心も高まりつつありますが、それらの高い栄養価に疑う余地はないものの、持続性についての見解は割れています。

地球の限界内で食料栄養安全保障を解決するためには、持続的で健康的な食生活を実現するうえでの経済的障壁にも配慮が必要です。動物性食品から植物性食品あるいはこれからの食品(海藻、培養肉、昆虫食など)にシフトしていくことは、中高所得国での食料価格下落に貢献するかもしれませんが、低中所得国でのコストは高まる可能性があります。

農地の拡大と集約化は、グローバルノースにおいて現地のエコシステムへの最低限のリスクのもとで食料生産増と市場価格下落をもたらすことが期待される一方、グローバルサウスの生物多様性に負の影響を及ぼすと推計されています。社会正義の原理に基づいて食料安全保障の解決を計画し実施することで、食生活と農業生産増加に伴う根深い社会格差を悪化することなく、解消していくことが求められます。

現在の食料生産・消費システムに伴う環境・社会経済問題はもはや看過できません。科学に基づく解決法が緊急に必要とされています。


(参考文献)
Feeding the future global population. Nat Commun 15, 222 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-023-44588-y


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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