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810. 2022年における世界の森林破壊

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810. 2022年における世界の森林破壊

 

世界の森林は、炭素吸収・貯留能力から地球の気候・環境制御に大きな役割を果たしてきましたが、人為的な経済活動による森林破壊・劣化が進んでおり、森林の機能不全が地球システム全体の攪乱を引き起こしかねないことが懸念されています。このことから、近年、気候変動対策・生物多様性保全に関する国際会議・交渉の場において、森林破壊を食い止め、森林を保全する取組が議論されています。こうした背景から、2021年のグラスゴーCOP26では、ブラジルやインドネシア、マレーシアという熱帯林を抱える国を含む145か国が森林破壊や劣化を2030年までに食い止めるコミットメントに署名しました。 にもかかわらず、世界全体では森林面積の喪失が進んでいるようです。


6月27日、世界資源研究所(WRI)が運営するグローバル・フォレスト・ウォッチは、2022年に森林破壊のペースが加速したことを報告しました。グローバル・フォレスト・ウォッチによると、2022年に失われた熱帯原生林は410万ヘクタールで、これはスイスの国土面積にほぼ等しく、毎分サッカー場11個分の森林面積に相当、また温室効果ガス排出換算でインドの化石燃料セクターに匹敵すると報告しました。

報告によると、世界の原生林の喪失の43%をブラジルが占めました。ブラジルのアマゾンにおける森林喪失は主に伐採によるものですが、2005年以来高い水準となっています。とくにアマゾン西部で大規模な森林伐採が進行しており、既存のハイウェイ沿いで放牧地が拡大していることに関連していそうです。ブラジルのアマゾン森林破壊は、カーボン喪失のインパクトに加え、地域の降雨パターンに影響を及ぼし、最終的にはエコシステムの殆どがサバンナに変化する「転換点 tipping point」を引き起こしかねないと懸念されています。

アフリカのコンゴ民主共和国(DRC)やガーナでも記録的に高い水準での熱帯原生林の破壊が観察されています。DRCでは貧困のもとで人口増に伴う食料需要増加を満たすための小規模農家による農地拡大や炭焼きが、ガーナでは残存する原生林内の保全地区隣接地域におけるココア栽培農地拡大のための小規模な森林伐採が原因となっています。このように、アフリカでは小規模農家の貧困と農業生産性の低さが、森林破壊の主要因となっています。

ボリビアでは近年、熱帯原生林喪失の急激な加速が報告されており、原生林喪失面積はブラジル、DRCに次ぐ3位で、インドネシアを上回っています。ダイズ、そしてメイズやソルガムなどや放牧用地の拡大などのアグリビジネスに加え、干ばつ・農地への火入れによる森林火災も森林破壊の原因となっています。

これに対し、インドネシアにおける熱帯林喪失は近年減少傾向にあり、2022年には記録的に低い水準を記録しました。マレーシアにおける熱帯原生林喪失も近年頭打ちとなり、ここ数年は歴史的に低い水準を維持しています。森林破壊を食い止めるためのパームオイル等の産業に対する政府の規制強化や企業のコミットメントが功を奏しているようです。


グローバル・フォレスト・ウォッチは、インドネシアやマレーシアで森林破壊の減速が観察されるのに対し、そのほかの国では森林破壊の加速を促すような活動や政策が維持されていることを問題視し、気候変動緩和および生物多様性維持のための熱帯林保全に向け、政治的コミットメントを超えたアクションの必要性を訴えました。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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