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809. 日本の熱帯農業研究現場の最前線 「熱研」

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809. 日本の熱帯農業研究現場の最前線 「熱研」

6月29日は国連で制定された国際熱帯デー(International Day of the Tropics)です。地球温暖化により日本各地でも気温の上昇、台風・豪雨の増加や海面水面の上昇など熱帯化の進行が疑われる現象が起きるようになってきています。農業面では、果実の着色不良、イネ、トマト等作物の高温障害等が頻発しています。熱帯・島嶼研究拠点、略して「熱研」は、石垣島の亜熱帯海洋性の湿潤島嶼といった気候・地理的条件を活かし、気候変動を始めとする地球規模で発生する食料・環境問題の解決に日々取り組んでいます。

国際農研は、2021年度から始まった第5期中長期目標で、我が国を含む世界の農林水産業技術の向上を図り、持続可能な農林水産業の発展に寄与するために3つのプログラム(環境、食料、情報)と17のプロジェクトを設け、研究活動を行っています。このうち熱研では主に、熱帯作物資源プロジェクト、熱帯島嶼環境保全プロジェクトと実用化連携プロジェクトに係る研究を実施・分担しています。

 

熱帯作物資源プロジェクトでは、熱研が保有しているサトウキビ、インド型イネ、熱帯果樹、ブラキアリア(熱帯性の牧草)の遺伝資源を活用し、不良環境下における安定生産を目指した遺伝資源の評価や新育種素材の開発を通じた情報の提供・共有や連携を進めています。成果の一つとして今年度は、エリアンサス(サトウキビ近縁種)遺伝資源データベースやJIRCASマンゴー遺伝資源サイト(英語版)を開設しました。

 

熱帯島嶼環境保全プロジェクトでは、土壌・栄養塩類の流出を削減する技術を山・里・海で開発し、熱研で技術の実証と導入効果を定量化し、石垣島をはじめとする沖縄県全体や、同じ熱帯島嶼であるフィリピンへの社会実装を目指しています。これまでの成果として、石垣島主要河川の栄養塩濃度を、機械学習を用いて高精度に予測する技術を開発しました。また、土壌中の窒素等栄養塩類の動態を観測するための装置を製作し、2023年4月7日に、「科学技術分野の文部科学大臣表彰」を授与しました。

 

実用化連携プロジェクトでは、熱帯・亜熱帯地域においても、高品質な野菜を周年で安定的に生産するための植物工場の開発に取り組んでいます。本研究は民間企業や農研機構と共同で実施しており、トマトやイチゴを対象に、ハウス内の環境制御システムや栽培管理法などについて研究しています。東南アジアや中東などからも熱研の施設の視察がある等、本研究の成果について、アジアモンスーン地域から高い関心が寄せられています。

 


エリアンサス遺伝資源データベースはこちら
https://www.jircas.go.jp/ja/database/erianthus

JIRCASマンゴー遺伝資源サイト(英語版)はこちら
https://www.jircas.go.jp/en/database/mango/mango-top

機械学習を用いた石垣島主要河川の栄養塩濃度の予測はこちら
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2023/press202302

創意工夫功労者賞の受賞はこちら
https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2023/r20230517

駐日シンガポール大使館ご一行による植物工場の視察はこちら
https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2022/r20230217_0

 

(文責:熱帯・島嶼研究拠点 大前英、山中愼介、安西俊彦、中山正和)

 

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