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807. 国家の管轄権の及ばない海洋地域の保全と持続性に向けた歴史的な合意

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807. 国家の管轄権の及ばない海洋地域の保全と持続性に向けた歴史的な合意

気候変動ではパリ協定の1.5℃ゴールが有名ですが、生物多様性保全においては、昨年12月、カナダ・モントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において表明された、昆明モントリオール・グローバル生物多様性フレームワークのもとでの「30 by 30」コミットメントがあります。このコミットメントは、2030年までに、世界の陸域・内水・海岸地域・海洋の少なくとも30%、とりわけ生物多様性・エコシステム機能やサービスにとって重要な地域を重点的に保全することを謳っています。

一方、陸域はともかく、地球の表面積の7割を占める海洋は、その3分の2以上が、
公海・大陸棚を超えた海底・極地を含む、国家の管轄権の及ばない海洋地域(Marine Areas Beyond National Jurisdiction)となっています。実際、国家の管轄権の及ばない地域には、極端な気温・塩分濃度・水圧・暗闇といった条件に耐えるために独自に進化した固有種を含む、極めて多様で重要な生態系が存在します。一方、こうした地域は、不適切な漁業や船舶の航行による汚染・騒音や海底の鉱物資源開発などの人間活動に影響を受けており、持続性の維持が懸念されています。こうした背景から、長年にわたり、国家の管轄権の及ばない海洋地域における生物多様性保全に関する、国際的な取り組みの必要性が叫ばれてきました。


6月19日、国連は、国家の管轄権の及ばない海洋地域における生物多様性の保全と持続可能な利用を保障するための歴史的な合意を採択したと発表しました。アントニオ・グテーレス国連事務総長は今回の合意を、グローバルな危機に対する国境を越えた多国間主義の強さの表れとし、公共財である海洋に生き返りと戦いのチャンスを与えた、と各国の合意を称賛しました。


国連が発表した今回の合意は、「海の憲法」とも称される「海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea:UNCLOS)」のレガシーを継承し、海洋における自由を認めつつも利用責任を求めます。合意は、海洋の生物多様性保全と持続的利用に関する法的枠組みを大幅に強化し、海洋利用における各国の協力体制を可能するとし、結果、2030年の持続可能な開発目標、および、「昆明モントリオール・グローバル生物多様性フレームワーク」の海洋関連の目標達成に鑑みて、重要な取り組みとして期待されています。

 


合意は次の4つの課題を取り上げています。

  • 遺伝資源情報(genetic resources)やそのデジタル配列情報(digital sequence information)といった資源がすべての人類の利益となることを目指します。
  • 公海および国際海底地域において、生物多様性の観点から重要な生息地と生物種の保全・保護を目的とする海洋保護区の設置を可能にします。このような措置は、2030年までに世界の陸域および内陸水域、海洋および沿岸域の少なくとも30%を効果的に保全・管理することを目指す「昆明‐モントリオール協定「30×30」」の世界目標を達成する上でも重要です。
  • 国家の管轄を超える海域での環境影響評価の実施、および政策意思決定における配慮を保障します。また、気候変動、海洋酸性化を引き起こす環境活動に対する国際的な法的枠組を世界で初めて提供します。
  • 全ての国において公平な利用を可能にすべく、関係国の技術・能力構築に支援を提供します。協定参加国、中でも特に発展途上国が責任ある活動を実行できるよう、支援等を実施します。


さらに、この取り組みを通じ、国連海洋法条約に関係する法的枠組内で、関係国・地域・組織の抱える横断的課題(cross-cutting issues)の解決に向けて、投資や交渉機会の拡大が期待されます。

 

今回の合意は、9月にニューヨークの国連本部で予定されているSDGサミット翌日の2023年9月20日から2年間、署名のために開放され、60か国以上による批准をもって発効する予定とのことです。


(情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)


 

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