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735. 人間社会の気候変動への対応が生物多様性の運命を決める

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735. 人間社会の気候変動への対応が生物多様性の運命を決める

2月に公表されたPNAS誌の論考は、気候変動が人間社会へのインパクトを通じて生物多様性に及ぼす影響を理解する重要性について論じました。

気候変動は人類および生物多様性にとって、地球壊滅リスク(an existential threat)です。 生物種が気候変動による直接的な非生物的条件の改変に極めて脆弱であることについての研究は進んでいます。一方、気候変動と生物多様性の関係は極めて複雑で、人間社会へのインパクトを通じ、難民移動、農業生産の変化、資源搾取、を伴うことで、実際のインパクトの程度を予測する上で大きな不確実性を伴います。気候変動の人間社会・人口動態・経済への攪乱が生物多様性にもたらしうるインパクトについては、十分な研究はなされていません。よって、気候変動による生物多様性の影響は、非生物的な直接的なインパクトの評価にとどまり、問題の過小評価に繋がっています。

気候変動は、生物多様性に直接的な影響だけでなく、人間社会による気候変動へのリアクションを経由したインパクトもたらします。例えば、温暖化によって冷涼な気候に適応できない作物の栽培地域が標高を超えて拡大し、森林破壊や土地利用によって山岳地帯を脅かすこともありえます。気候変動はまた、多くの地域において農業生産や淡水のアベイラビリティーに影響を与え、シリアやソマリアのケースにあるように、しばし社会にストレスと紛争をもたらします。そして紛争は生物の生存圏を破壊し、野生生物の乱獲や人々の強制移住や国家経済の破綻をもたらします。多くの地域で、気候変動は食料安全保障や自然資源へのアクセスに影響を及ぼします。地域によっては、気候変動緩和を目的とした「グリーンエネルギー」ですら、土地利用の変化を通じて生物多様性にインパクトを与えます。

気候変動の人間社会の反応を通じた生物多様性へのインパクトという経路の複雑性ゆえに、気候変動の生物多様性インパクトの研究は非生物的変化の種の脆弱性にとどまっているのかもしれません。それでも、様々な分野の研究者が共同して気候変動の生物多様性への影響を、人間社会との相互作用を踏まえて多面的に評価することは極めて重要です。そのためには、科学者や政策策定者が生物多様性とその保全が経済・社会に貢献することについての共通認識を高めていく必要があります。

(参考文献)
Jedediah F. Brodie and James E. M. Watson Human responses to climate change will likely determine the fate of biodiversity PNAS February 15, 2023 120 (8) e2205512120 https://doi.org/10.1073/pnas.2205512120 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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