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768. 連動する気候変動・生物多様性危機と社会的インパクトを克服せよ

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768. 連動する気候変動・生物多様性危機と社会的インパクトを克服せよ

気候変動と生物多様性喪失は、我々の社会および生態系に甚大な影響を及ぼしています。この二つの危機は、共通の因果関係により極めて密接に連動しており、双方の解決に同時に取り組む必要があります。

4月21日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)および 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)に係る研究者らが、連動する気候変動・生物多様性危機の双方に取り組む必要性について、Science誌で論文を公表しました。

人為的な温室効果ガス排出を原因とする気候変動ですが、その排出源はバイオマスおよび生物多様性の喪失に起因するものも含んでおり、人類の文明の進化・グローバル化によって完新世を超える気温上昇をもたらしています。一方、平均気温の上昇と異常気象の頻度および強度の増加は、生態系の機能を攪乱し、生存圏の喪失をもたらし、既に人類の活動によって生存圏の劣化に直面してきた生物多様性の喪失を前例のない規模で加速させており、また自然資源の過剰搾取や汚染をもたらしています。気候変動および生物多様性の喪失の双方とも、自然が人々にもたらしてきた恩恵 -生活・経済・開発- を損ね、気候変動への適応・緩和を支える機能不全に陥れます。今行動しなければ、貧困・食料安全保障の危機・望まない移住・政治不安や紛争は悪化しかねません。世界の気候および生物多様性の危機は連動しており、その社会的な影響は土地・淡水・海洋エコシステムに及びますが、IPCCのもとで温暖化を1.5℃に抑制する目標を達成するための努力は十分に実施されておらず、IPBESの2011から2020年までに生物多様性の損失を止めることを目指した愛知目標の多くは未達でした。

気候、生物多様性、社会的な問題は極めて密接に連動しているにもかかわらず、それぞれ別の問題として扱われてきました。これらセクターが連携することによる相乗便益(co-benefit)が期待できます。実際に、野心的な排出削減対策の下で温暖化が1.5℃以下に抑えられているならば、人の手の入らないエコシステムの機能のもと、自然は効率的に(光合成を通じて)カーボンの回収および隔離を行うことが可能です。陸地・淡水・海洋における生物圏の強靭性を高めることは、気候変動緩和・適応・生物多様性・人類の厚生と生活を支えます。多くの科学的なエビデンスは、人によって破壊されておらず、豊かなカーボン・種の多様性を有する環境を優先的に保全し、生物多様性の持続と社会的に公平な相乗便益の分配に配慮した保全プロジェクトを実施すべきと示唆しています。科学・政治の協調が求められていきます。

将来にわたり生態系の機能と人類の厚生を両立する上で、温室効果ガス排出の大幅な削減、多面的な機能を持つランドスケープおよび海洋の保護、自然資源への公正なアクセスを保障する政策が求められています。

 

(参考文献)
H.-O. Pörtner, Overcoming the coupled climate and biodiversity crises and their societal impacts, Science (2023). DOI: 10.1126/science.abl4881. www.science.org/doi/10.1126/science.abl4881

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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