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937. 自然資本に影響する不均衡な気候インパクト

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937. 自然資本に影響する不均衡な気候インパクト

 

きれいな空気や水、健全な森林と多様な生態系など、現在および将来にわたり人々に便益をもたらす天然資源を表す「自然資本」概念が近年注目を集めており、多くの科学者・経済学者・政策立案者らがその複雑な機能の数量化に取り組んでいます。一方、気候変動が原因で引き起こされる植生や降雨パターンの変化・二酸化炭素の増加等により生態系サービスが失われることで、2100 年までに世界の自然資本の相当が減少するだけでなく、気候変動の負の影響が逆進的で、脆弱な国ほど重く圧し掛る可能性があります。

今日のPick Upは、気候変動のもとでの地域及び国ごとの自然資本の減少とその不均衡なインパクトに関する最新の研究論文の要点を紹介します。

本論文は自然資本を、市場で交換される商品とサービスを表す市場型自然資本と、通常市場で交換されない非市場型自然資本、の2つに分けて分析しました。まず、世界銀行の「国の富」(自然資本・製造資本・人的資本の合計)報告書における国レベルの自然資本ストック価値を各国領域内の生物群系(biomes)と紐づけ、市場型自然資本を木材収入からの見込み収入、そして非市場資本を森林関連のレクリエーション・水資源・非木材森林産物・保全地域等を反映した価値、として推計しました。市場型自然資本によって得られる利益はGDPに反映されますが、非市場型自然資本によって得られる利益はGDPに反映されません。

分析の結果、気候変動がない場合と比較し、非市場自然資本の価値は2100年までに9.2%減少し、世界人口で加重平均をとったGDPは2100年までに1.3%減少すると推計されました。低所得国及び中所得国において、低所得国ほど自然資本への依存度が高く、気候変動のGDPへの影響は逆進的です。こうしたダメージの90%近くが、研究対象国の中でも最も貧しい国や地域の50%において負担されることになる一方、最も裕福な国や地域の10%が負担する損失は全体の2%に過ぎないと推計されました。

今回の研究により、自然資本と人間のウェルビーイング(well-being)を分析枠組みの中に取り込むことで、自然資本の損失を認識した気候変動対策の重要性が改めて認識されました。また気候変動による生態系の変化は、自然資本への依存度の大きいグローバルサウス地域に大きな不利益をもたらし、国の豊かさと経済生産にも負の影響を及ぼすことが結論付けられました。各国が自然資本から得る価値に配慮した政策策定が、当事国の、さらには世界の、その後の経済損失を最小化するカギとなるでしょう。


(参考文献)
Bastien-Olvera, B.A., Conte, M.N., Dong, X. et al. Unequal climate impacts on global values of natural capital. Nature (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06769-z
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06769-z

(文責: 情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)

 

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